「趣味の文具箱」編集長・清水のつぶやき<第5回>日本が世界に誇る最強の鉛筆

“昭和40年男”にとっての小学生時代は1970年代。「ユニ」は憧れの的だった。まとめ買いするともらえるオマケや、ダース箱を筆箱として使う快感を覚えている人も多いはずだ。

ユニは、三菱鉛筆というメーカーの歴史と、日本文具の高い品質を象徴する鉛筆だ。この製品の開発が始まったのは昭和28(1953)年。敗戦から8年、日本はまだ貧しかった時代、日本の鉛筆はドイツのファーバーカステルやステッドラーの模倣品ばかりで、安かろう悪かろうの代名詞のような存在だった。当時の三菱鉛筆の技術部長らは、一流の建築家やデザイナーにも選ばれる鉛筆を作ろう、と一念発起し、素材と製法を徹底して見直すことで、世界最高水準の鉛筆を目す。そして5年後の昭和33(1958)年にユニを世に送り出した。

鉛筆1本が5円程度の時代に、ユニは50円(1ダース600円)。建築家やデザイナーなどのプロ向けを想定していたが、1960年代以降の高度経済成長や鉛筆の貿易自由化などが後押しとなり、小学生でも背伸びをすれば手に届く存在となり、予想をはるかに上回る勢いで売れた。

理想の鉛筆とは極端に表現すれば「濃さは6Bで、硬さは9H」。滑らかで軟らかい感触で書け、芯の先端は減りづらい。ユニは、これにできるだけ近付くために、粘土、黒鉛の材料を超微粒子にして、書き味の軽快さを実現させている。1966年には、粒子の密度をさらに上げた「ハイユニ」が完成。素材、製法などのクオリティはこれ以上は不可能と言われ、世界最高峰の鉛筆として絶大な信頼を得ている。

ユニを象徴する軸の色は「ユニ色」と呼ばれる。開発時に世界中の鉛筆を集め、どの鉛筆と並べても同じ色に見えないような色を試行錯誤して開発した。そして、和の伝統色であるエビ茶色と高級さを感じさせるワインレッドをブレンドした唯一無二の色を開発。この色を何度も重ねて塗ることで、表面には漆器のような艶が表れている。

ユニは誕生から60年を超えた。子供にとっては相変わらず大人っぽい存在であり、大人にとっては郷愁と憧れを帯びた不思議な魅力を帯びた鉛筆だ。

※参考資料「STATIONERY magazin no.005(2009年発行/枻出版社)」

この記事を書いた人
清水茂樹
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清水茂樹

編集長兼文具バカ

雑誌「趣味の文具箱」編集長。1965年福島県会津若松市生まれ。文房具に関する雑誌の編集、オリジナル文具の開発を担当。2004年に「趣味の文具箱」創刊し、世界中の文具メーカーの取材を勢力的に続け、最新の文具情報を発信。筆記具や文房具の魅力と、手で書くことの楽しさを伝えている。
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