廃棄される杉の皮がインクに。
富山県氷見市、昔から漁業の盛んな街であり、漁船用の木材として氷見の木が使われていた歴史がある。いまでも富山県の約6割が氷見周辺の木が使われているそうだ。岸田木材は伐採した丸太を製材にして卸している会社で、丸太の皮を剥いて板材などに加工をしている。今回注目したのは、「ひみ里山杉」の皮。
剥いた皮は産業廃棄物として処分するのが主流。その他にはバーク堆肥にすることもあるが、それを作るのには広い場所で4~5年ほど野ざらしにして腐らせる必要があるため簡単には再利用ができない。
使い道がなかなか見つからない中、ひみ里山杉が普通の杉よりもピンクかがっているのが特徴だということに気づく。しかもソメイヨシノと同様、クローンの遺伝子を持っているため、同じ色や木目が出やすい。そこで草木染の研究所にインクが作れないかと相談したことからインク作りが始まった。
まず、少しピンクが入った薄茶色に出来上がったが、もう少し濃度を上げないとインクとしては使えない。濃くしすぎてドロドロになっても使いにくいし、サラサラだと紙に固着しない。試行錯誤する中で、ようやくちょうどいいバランスで出来上がったのが、この文染のインクだ。
世の中がすっかりデジタルになり、手書きで文字を書くと言うことがめっきり減ってしまった。それでも手書きの文字というのは、どこか温かく、書く人の気持ちが伝わってくるような気がする。ひみ里山杉のインクも、書き手の想いに一役買ってくれるはずだ。
氷見の杉を思わせるやわらかな色合いが魅力。
「ひみ里山杉からできたインクとつけペンセット」インクだけでなく、つけペンの軸も氷見の杉で作られているそうだ(7150円)。インクのみでも販売(2750円)
京都の文具メーカーのタケダ事務機「文染」との共同開発で作ったインク。万年筆やガラスペン、毛筆にも使用可能だ。1本25ml
【DATA】
岸田木材
TEL0766-91-0093
https://kishidamokuzai.co.jp/workstudy/himisatoyamasugi_ink
※情報は取材当時のものです。
(出典/「Lightning2023年5月号 Vol.349」)
Text/M.Matsumoto 松本めぐみ
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