杉の皮から作られる、優しい色合いの万年筆インク。

本来不要として廃棄されてしまうものを、別のカタチに変化させるアップサイクル。杉の丸太を製材にしている富山県氷見市の岸田木材では、どうしても出てしまう丸太の皮を、産業廃棄物として処分するのではなく、万年筆のインクとして蘇らせた。

廃棄される杉の皮がインクに。

富山県氷見市、昔から漁業の盛んな街であり、漁船用の木材として氷見の木が使われていた歴史がある。いまでも富山県の約6割が氷見周辺の木が使われているそうだ。岸田木材は伐採した丸太を製材にして卸している会社で、丸太の皮を剥いて板材などに加工をしている。今回注目したのは、「ひみ里山杉」の皮。

剥いた皮は産業廃棄物として処分するのが主流。その他にはバーク堆肥にすることもあるが、それを作るのには広い場所で4~5年ほど野ざらしにして腐らせる必要があるため簡単には再利用ができない。

富山県で伐採される丸太の6割は氷見周辺の杉。昔から漁業が盛んだったことから、漁船用の木材として使われることが多かった。林業としては他県よりは規模は小さいが、生活との関わりはと ても大きい
伐採された丸太は3mと4mの長さにカットされる

使い道がなかなか見つからない中、ひみ里山杉が普通の杉よりもピンクかがっているのが特徴だということに気づく。しかもソメイヨシノと同様、クローンの遺伝子を持っているため、同じ色や木目が出やすい。そこで草木染の研究所にインクが作れないかと相談したことからインク作りが始まった。

まず、少しピンクが入った薄茶色に出来上がったが、もう少し濃度を上げないとインクとしては使えない。濃くしすぎてドロドロになっても使いにくいし、サラサラだと紙に固着しない。試行錯誤する中で、ようやくちょうどいいバランスで出来上がったのが、この文染のインクだ。

少しピンクがかった色に、深みのある褐色を加えていいバランスの色味に作り上げた。ほのかに香ってくる杉の香りがリラックス効果を与えてくれるのも特徴のひとつだ

世の中がすっかりデジタルになり、手書きで文字を書くと言うことがめっきり減ってしまった。それでも手書きの文字というのは、どこか温かく、書く人の気持ちが伝わってくるような気がする。ひみ里山杉のインクも、書き手の想いに一役買ってくれるはずだ。

皮と木の身の間に虫が入ってしまう。特に梅雨になると虫がわきやすく、中の身を食べてしまうのだとか。それを避けるために、伐採したら皮を剥くという作業が必要不可欠。1週間に約20トンほどの杉の皮を剥ぐそうで、大型トラック1台分の量になるそうだ。その廃棄も大変なことだ
杉の皮は裁断して染料にする

氷見の杉を思わせるやわらかな色合いが魅力。

「ひみ里山杉からできたインクとつけペンセット」インクだけでなく、つけペンの軸も氷見の杉で作られているそうだ(7150円)。インクのみでも販売(2750円)

京都の文具メーカーのタケダ事務機「文染」との共同開発で作ったインク。万年筆やガラスペン、毛筆にも使用可能だ。1本25ml

【DATA】
岸田木材
TEL0766-91-0093
https://kishidamokuzai.co.jp/workstudy/himisatoyamasugi_ink

※情報は取材当時のものです。

(出典/「Lightning2023年5月号 Vol.349」)

この記事を書いた人
めぐミルク
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めぐミルク

手仕事大好きDIY女子

文房具、デザイン、ニッポンカルチャーなどのジャンルレスな雑誌編集を経てLightningへ。共通しているのはとにかくプロダクツが好きだということ。取材に行くたび、旅行するたびに欲しいものは即決で買ってしまうという散財グセがある。Lightningでは飲食、ハウジング、インテリアなどを担当。
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