見た目だけでなく、質感や音色まで体感できるリアルなエイジド・ギター。
これまで世界的な数々の有名ミュージシャンが主に1950年代〜’70年代にかけて作られたギターを愛用してきたこともあり、ヴィンテージエレクトリック・ギターは高騰を続けている。すでにギブソンやフェンダーといった有名ブランドが当時作ったギターの一部モデルは、高額な美術品のようなプライスとなっており、購入して使うことが現実的ではなくなってきている。
しかし、ヴィンテージギター特有の使い込まれたオーラを感じるルックスと経年変化により生まれる音色に惹かれ、ミュージシャンやギター好きからの需要が減ることはない。そんな状況もあり、新品のギターにヴィンテージのようなエイジド加工(※フェンダーではレリック加工と呼ぶ)を施したモデルが1990年半ばから登場し、その技術は日々進化した。
中でも現在ギブソンのカスタムショップに所属するトム・マーフィーは、エイジド技術の第一人者としても知られ、彼が長年の研究成果から導き出した技術を惜しみなく投入して製作されるマーフィー・ラボ・コレクションは、世界でも最高クラスのリアルなエイジド・ギターとして、オリジナルを知るプロ・ミュージシャンや楽器店の店員をも唸らせている。
2020年から登場したマーフィー・ラボ・コレクションは、ここで紹介したレス・ポール・モデル以外にも、レス・ポール・カスタム、ジュニア、スペシャル、SG、ファイアーバードV、ES-335やES-355、トリニ・ロペスといったセミ・アコースティック・ギターまで幅広くラインナップしている。
もちろんエイジドを施されるギターは、ベースとなった各年代の製作方法や仕様を緻密に再現したカスタムショップ・クオリティのモデルが使われ、サウンドや弾き心地の面でも、徹底的にこだわり抜かれている。例えば手間のかかるニカワ(※主に動物の皮や骨などを原料とした伝統的な天然の接着剤)によるネックとボディの接着なども、そのひとつと言える。
エイジド具合もユーザーの好みに合わせて、4段階用意(※モデルによって異なる)されている。今回紹介する2本のレス・ポールは、最もダメージ加工が施されたウルトラ・ヘヴィ・エイジド。ライヴなどで長年使い込まれ、塗装などの剥がれや傷もリアルに入れられている。
ヘヴィ・エイジドも同じような加工だが、若干ダメージ加工が抑えられている。ライト・エイジドは、主に家で長年弾かれてきたようなギターの風合いが再現されたモデル。さらにウルトラ・ライト・エイジドはダメージ加工を最小限にとどめ、パーツもくすみ程度に留められている。
トム・マーフィーは数多くのヴィンテージ・ギターを見てきた経験から、長年弾き続けられることでしか得られなかったボディの傷や塗装の剥がれ、パーツに施されたメッキのくすみやサビなどを緻密に再現している。さらにヴィンテージらしいルックスの核となる、主に1950年〜’60年代のギターに使われてきたニトロセルロース・ラッカーの経年変化を科学的に分析し、ウェザー・チェック(もしくはクラック)と呼ばれる自然なひび割れを新品のギターに施すことにも成功し、真にリアルなエイジド・ギターを誕生させた。
単にルックス的な側面だけではなく、新品にも関わらずヴィンテージ・ライクなルックス、質感、そして音色を体感できるまでになった。これがマーフィー・ラボ・コレクションの大きな魅力なのだ。
1959 Les Paul Standard Lemon Burst Ultra Heavy Aged
オリジナルは驚くほど高騰し “キング・オブ・ヴィンテージ・ギター”と言われる、1959年製のレス・ポール・スタンダード。それをカスタムショップの高い技術で、当時に限りなく近い仕様でリイシューし、サンバーストの赤い染料がフェイドしたレモン・ドロップと呼ばれる色味までリアルに再現する。142万3400円(税込参考価格)
1957 Les Paul Goldtop Ultra Heavy Aged
オールマン・ブラザーズ・バンドのディッキー・ベッツが愛用したことでも知られる1957年製レス・ポール・モデル。黄金の塗装から“ゴールドトップ”の愛称でも知られ、B’zの松本孝弘をはじめ日本のギタリストにも愛用者が多い。ボディに入れられた無数のウェザー・チェックは貫禄がある。121万1100円(税込参考価格)
※情報は取材当時のものです。
(出典/「Lightning2023年2月号 Vol.346」)
Text/S.Kikuchi 菊池真平
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