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パリに拠点を置くベンチャーキャピタルHCVC TOKYO SUMMIT 2023開催

パリに拠点を置くベンチャーキャピタルであるHCVCが、パンデミックの落ち着きをみて約4年ぶりに東京でのイベントを開催。日本の投資家、企業の投資部門、政府機関などに対するプレゼンテーションが12月12日に、都内某所で行われた。

医療系、脱炭素化、自動化などを中心に投資するVC

HCVCは、デジタルテクノロジーを活用する医療、世界のデジタル化、自動化、脱炭素化を進めるベンチャー企業に対して投資するベンチャーキャピタル。

HCVC
https://www.hcvc.co/

創業者のAlexis Houssouさんと、ジェネラルパートナーのJerry Yangさんがパリを拠点としており、同じくジェネラルパートナーのAymerik Renardさんがサンフランシスコ、パートナーのAlexandre Flamantさんがロンドンを拠点としている。

今回、東京のイベントを主催したJerry Yangさんは、台湾出身の投資家。現在はパリに住んでいる。実は筆者は、Jerryさんとは写真関係のイベントでお会いしたのがファーストコンタクト。Jerryさんはライカの愛好家でもある。

HCVCは、ハードウェアスタートアップ向けのコミュニティとして2015年に Hardware Clubとして始まった。Hardware Clubは現在世界中で600社以上の企業をサポートしているという。

6社のユニコーンを含むトップ1/4の画期的なテクノロジー企業への投資など、過去の投資の倍率は 4.5倍以上。ファンド1のEXIT額は5億ドルを超えるという。既存のポートフォリオ企業はIndex Ventures、Lux Capital、Tiger Global、Addition、Founders Fundなどで、7億ドル以上の資金を集めている。

HCVCは現在、2018年と2022年のビンテージの2つのファンドで約1億2500ドル(約184億円)を管理しており、最初のチケットサイズは100〜200万ユーロ(約1億6000万〜3億2000万円)だという。

我々庶民には縁のないケタ数のお金の話で、筆者が計算違いをしていなければがいいが……ともあれ、ベンチャーキャピタルとは、そういう規模のお金を集めて、それをリターンのありそうなベンチャー企業に投資していくというお仕事。

ここにいらしてるのは、資金を出して欲しいベンチャー企業の方と、出資を検討する投資家の方、もしくは企業の投資部門の目利きの方ということになる。VCの世界はこういう方々で回ってるのだ。

今回は、大成功してEXITを果たした2人の経営者のトークセッションとともに、6社のベンチャー企業がプレゼンテーションを行った。

EXITを果たしたCaper Labsの成果報告

Caper Labs
https://www.caper.ai/

Lindon Gaoさんは、AIを利用した自動決済ショッピングカートサービスを提供するCaper Labsの共同創業者兼CEO。同社はニューヨークを拠点としており、スーパーや大規模小売店などで便利に使える決済サービスを展開している。

Caper LabsはHCVCの1号ファンドの出資先でもあり、他にもFirst-Round Capital、Y Combinatorなどが出資している。2021年10月、Instacartに3億5000万ドル(約515億円)で買収され、大きな利益を手にすることができた。

血液ガンを治す細胞療法に技術革新を起すSarcura

Sarcura
https://sarcura.com/

ここからは、現在チャレンジ中のベンチャー企業のお話。Daniela Buchmayrさんは、Sarcuraの共同創業者兼CEO。Sarcuraはウィーンに拠点を置く医療系ベンチャー。

Sarcuraは細胞療法をローコストで大量生産できる生産技術。本人の免疫細胞を完全に機能する状態にした薬として、身体に入れることでガン細胞を治療する手法で、多くの大手製薬会社が、細胞療法の薬の開発にお金をかけている。血液のガンに対して最大90%の寛解率を発揮するなど画期的な治療法ではあるが、非常に高価格で、ほとんどの保険ではカバーされない。

この治療薬を、一般患者でも使えるように、IMECと共同開発してる MEMS 技術そして独自の Microfluidics と Silicon Optics 技術で Lab-on-a-chip の形で小型一体化生産システムを開発しコストを1/10にしようとしているのが、Sarcuraだ。

たとえば、日本でいえば現在2000万円以上の費用がかかり、細胞療法を受けているのは約500人程度だ。しかし、Sarcuraの技術が普及すれば、200万円程度までコストダウンすることが可能だと見積もられている。SarcuraはHCVC 2号ファンドの出資先で、LansdowneやIST Cube、Nina Capitalなどの投資も受けている。

マイクロウェーブ技術で荷物を検査するSpectrohm

Spectorohm
https://spectrohm.com/

次はSpectorohmの共同創業者兼CEOのTim Cargolさんが登壇。Spectorohmはなんと、CIAに所属していたメンバーが創設した企業だという。拠点はアメリカのバージニア州。

日本と同じく、いやそれ以上にアメリカはEC大国で、国中に段ボールのパッケージがあふれ返っている。このダンボールの中には何が入っているだろうか?

Amazonで買った商品か、何か違法なモノか? ニセモノか? 何か壊れたものか? ドラッグか? 銃か? 爆発物か?

治安の良い日本では、あまり考えられないことだが、アメリカではよりシリアスな問題だ。

Spectorohmは、マイクロウェーブ技術によって、パッケージの中をチェックする技術を開発している。

警察犬や人によるチェックには限界がある。X線装置は時間がかかるし、放射線の管理の問題もあり、さらに大型の機械が必要だ。

対して、Spectorohmの技術はコンパクトで、短時間で行うことができる。さらに、物質の性質を検知できるので、たとえばコーヒーの粉末の中に入れられたビニール袋入りのコカインを見つけることができる。

ますます、多様化し、混迷化する世の中において、運搬される膨大な貨物の安全性を高めるには、このような技術の進化が必要になるだろう。

AIで創薬の認証を加速するOrakl Oncology

Orakl Oncology
https://www.orakl-oncology.com/

Orakl Oncologyはパリを拠点とする世界最先端のガン研究機構 Gustave Roussy のスピンオフ企業。今回登壇したCOOのDiane-Laure Pagèsさんは神戸在住。同社は、薬の開発にAIを持ち込んで、創薬の速度を加速させようとしている。

ご存知のように、薬の開発は副作用などに対する慎重な検証を経て行われる。そのため、時として非常に時間がかかるし、コストもかかる。

Orakl Oncologyは生物学から得られたデータにAIを適用して開発の速度を飛躍的に向上させようとしている。

Orakl Oncologyはテックバイオプラットフォームとして、ガン治療の専門家と連携し、関連する標的を特定して、より早く優れた薬を提供するのだという。

土壌を分析し、AIで適切な農薬、肥料の散布を実現するAugmenta

Augmenta
https://www.augmenta.ag/

コーヒーブレイクのあとに登場したのは、ギリシャのアテネに拠点を置くアグリテックのスタートアップAugmentaの共同創業者兼CEOであるGeorge Varvarelisさん。

Augmentaは農業でキチンと利益を上げて持続可能にするテクノロジーを提供する。農機に備えた独自の多波長センサーとAIを活用して農地を分析。農家の農薬と肥料の使用量を適切にし、より安全に、低コストで、高い収穫量を実現する。

同社はCNH Industrialに1億1000万ドル(約182億円)で、買収された。AugmentaはHCVC 1号ファンドの出資先でもある。

すべての赤ちゃんに母乳に酷似した栄養素を持つ肝細胞オルガノイド由来のミルクを作るNūmi

Nūmi
https://www.numi.life/

Nūmiは、粉ミルクの代替手段として考えられてるもの。話をしてくれたのは、Nūmiの共同創業者兼CEOのEden Banonさん。

ご存知のように、子供は母乳で育てられる場合だけではなく、多くの場合代替手段として、粉ミルクが使われる。

しかし、母乳には素晴らしい働きがある。

母乳には1500以上の生理活性分子がある。ラクトフェリン、母乳オリゴ糖(HMO)、抗体などの化合物が含まれており、その後の身体の防護機能の構築において重要なものだ。母乳のタンパク質と脂肪酸は食物摂取量の調整と並んで、全体的な健康とウェルネスの基礎を築き、潜在的には糖尿病など将来の病気リスクを軽減することさえある。

また、脳の活性化に欠かせない栄養素であるタウリン、DHA、ARAが含まれており、それらは最適な脳と神経の発達を促進する上で極めて重要な役割を果たすという。

Nūmiは肝細胞由来のオルガノイドを成長させ、新生児や乳児に必要な栄養価を持つ母乳を生産している。これは粉ミルクよりはるかに母乳に近い成分を持っており、上記の多くの母乳と同じメリットを提供することができる。

NūmiはHCVC 2号ファンドのポートフォリオ企業で、Heartcore Capitalの投資も受けている。

合併症の発症をAIで予測するSurge

Surge
https://surge.care/

Surgeはサンフランシスコとパリを拠点としており、スタンフォード大学医学部に所属するBrice Gaudilliere(登壇者)とJulien Hedouというふたりの生物医学研究者によって創業された。Brice Gaudilliereさんは、なんとスタンフォード大学医学部の准教授。

彼らが開発したのは、非常に高い精度の免疫系テスト手法。これを活用して、手術の前にそれぞれの個人に起こる可能性の高い合併症の発生を予防することができるのだという。

合併症の発生を抑えることで、手術のリスクを大きく下げることができるのだという。

同社は、HCVC 2号ファンドの出資先となっている。

体重計に似たデバイスで、心拍機能や血液を計測するBodyport

Bodyport
https://bodyport.com/

John Lipman CEO率いるBodyportは体重計を兼ねたデバイスに心臓と血液の機能を測定するセンサーを内蔵し、独自のアルゴリズムを用いて非侵襲的にヘモダイナミックバイオマーカーを計測する。

心臓、血液の状況の定期的な計測は、ヘルスケアの向上に大きく役に立つ。計測結果は、パソコンやスマホのアプリに転送、分析される。

サンフランシスコを拠点とするBodyportはHCVC 1号ファンドの出資先であり、またY Combinator、Playground Global、Initialized Capitalの投資も受けている。

参加者にとって、素晴らしいチャンスだった

全編英語でのセッションではあったが、HCVCの投資している企業のプレゼンテーションが日本で直接見られるのは貴重な機会。日本の投資家、企業の投資部門の人たちにとっては、非常に得難いチャンスであっただろう。

パンデミックも終わりを告げ、HCVCは来年以降も定期的にイベントを開催したいと考えているとのこと。イベントを観覧したい人は、あらかじめHCVCに連絡をとっておくと良いかもしれない。

HCVC
https://www.hcvc.co/

(村上タクタ)

この記事を書いた人
村上タクタ
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村上タクタ

おせっかいデジタル案内人

「ThunderVolt」編集長。IT系メディア編集歴12年。USのiPhone発表会に呼ばれる数少ない日本人プレスのひとり。趣味の雑誌ひと筋で編集し続けて30年。バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴの飼育、園芸など、作った雑誌は600冊以上。
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