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『失われた30年』に大変貌を遂げたフォントの話【タイポグラフィ・ブギー・バック】

『フォントの日』に開催された『Adobe CC道場スペシャル』に出演されていたフォント愛好家・正木香子さんの著書、『タイポグラフィ・ブギー・バック』を読んだ。

iPhone/Macと同じ美しいフォントが、Windowsでも使えるように!【Adobe Fonts】【フォントの日】

iPhone/Macと同じ美しいフォントが、Windowsでも使えるように!【Adobe Fonts】【フォントの日】

2025年10月17日

主なテーマは、写植・電算写植から、デジタルフォントへの移り変わりだった。思えば、バブル崩壊とか、景気の低迷とか、出版の凋落とか、サブカルの隆盛とか、いろんなことと重なっていて面白い。

タイポグラフィ・ブギー・バック: ぼくらの書体クロニクル
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筆者の職歴の始まりはDTPからだった

ダンスフロアに華やかな光
僕をそっと包むよなハーモニー♪

筆者(本の著者でなく、私、村上タクタ)が出版業界に入ったのは ’92年7月だった。当時世間はまだまだ写植全盛の時代だったが、私が入ったライダースクラブというバイク雑誌は先進的なDTPを取り入れていた。

手取り月給13万円で入社したばっかりの私の机には、「80万円もするんだからな、壊すなよ」と言われてMacintosh Classic IIが置かれていた。デザイナーたちは、IIciでAldus Page Maker 6.5を使ってデザインしていた。

当時は写真は粗いモノクロ画像のみをアタリ用に取り込んで、本番写真は印刷所ではめ込んでいた。文字組みを含むデザインは帆風などの出力屋さんに持ち込んで出力してもらい、それを銀座の印刷屋さんにバイクで持ち込んでいた。なにしろ、バイク雑誌だから「オレらの方がバイク便より速い」と意味の分からない自負を抱いていた。

DTP→写植。まさに時代に逆行

ところが、 ’95年に着任した編集長が「写植の方が美しい」と言い出して、写植に逆戻り。デザインもデザイン用紙という方眼紙のような紙の上にデザイナーが手書きするようになった。

(キャッチ 16Q ゴナDB ツメツメ 行18)
(キャッチ 13Q EG-KL ツメツメ 行15)
(キャプ 10Q DG-KL ツメ 行12)

文字は、シャープペンシルで引かれたZ字型の枠の中にこういう指定が書いてある。そして、級数表という升目が引かれた透明な下敷きのようなモノを当てはめて、文字数を調べてデザイナーが書き込んでくれている。本文なら(17文字×107行)とかいう具合だ。

ここで、書いた文字をフロッピーディスク(3.5インチ)に入れて写植屋さんに渡すと写植が上がってきて、それを印刷屋さんが、別途入稿されたポジフィルムの写真を合わせて版を構成してくれる。なんか、今考えるとめちゃくちゃ大変だ。

結局のところデジタルでは当時のリュウミンなどの文字がちょっと細くて頼りなかったり、フォントのバリエーションが足りなかったり、文字ヅメが写植ほど上手くいかなかったりしたのだ。

この本で言うところの『写植からデジタルフォントに移り変わりながら混在していた時代』、私はまさにデジタルと写植を行ったりきたりしていたのだ。

バブル崩壊、出版凋落、写植からデジタルフォントへの移り変わり

渋谷系という言葉の華やかさとはまったく関係のない、渋谷1丁目のライダースクラブ編集部で徹夜していた時代、当時のボスに呼ばれて六本木のバーに行くとかならず歌って(というか歌わされて)いたのが、『今夜はブギーバック(nice vocal)』だった。

だから筆者にとって、写植の級数指定をしていた時代の背景には、オザケンの『今夜はブギー・バック』が流れている。この本の『タイポグラフィ・ブギー・バック』というタイトルは、筆者にとっての時代性をめちゃくちゃ上手く汲み取ってくれている。懐かし過ぎる。

と、まぁ、話は途方もなく自分語り、昔語りになってしまったが、正木さんのこの本も、まさにフォントにまつわる自分語り、昔語りの本。

『今夜はブギー・バック』の他にも、『SLAM DUNK』などのジャンプマンガのフォント選び、古畑任三郎とヱヴァンゲリヲンの文字組み、クウネル、SWITCHなどの雑誌、きゃりーぱみゅぱみゅ、椎名林檎などに関するフォント選びのエピソードなど、言われてみれば「そういえば!」とヒザを打ちたくなるようなフォントにまつわるエピソードが満載である。

そして、この本が指摘している通り、ここ30年でフォント選びの事情は大きく変わっており、我々が目にする文字は写植文字からすっかりデジタルフォントに移り変わった。

’95年に僕らの編集部が感じてたような、デジタルフォントの貧弱さみたいなものはまったくなくなった。

フォントのバリエーションも増えたし、2001年にMac OS Xが登場、その後、日本語組み版の特殊事情をしっかり取り込んだInDesignが登場した(それ以前は、Page Maker→QuarkXPressだった)。印刷所の対応が進まないとか、いろいろな事情があって、Power Mac G4+OS 9+QuarkXPressという組み合わせは長く使われたが、最終的にはAdobe InDesignがデファクトスタンダードになった。そのあたりの事情も掘り下げるといろいろあるのだが、ともあれ、そんな波乱万丈があって今がある。

その頃の僕らと言ったら
いつもこんな調子だった♪

一般の方が読んで面白いかどうかは分からないが、私は非常に楽しく、かつ懐かしく読ませていただいた。

(村上タクタ)

正木香子さんがお話しされた『【CC道場 スペシャル】フォントの日だよ〜文字っ子!全員集合〜あのフォントが使えるってふぉんと!? 』はこちら。

この記事を書いた人
村上タクタ
この記事を書いた人

村上タクタ

おせっかいデジタル案内人

「ThunderVolt」編集長。IT系メディア編集歴12年。USのiPhone発表会に呼ばれる数少ない日本人プレスのひとり。趣味の雑誌ひと筋で編集し続けて30年。バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴの飼育、園芸など、作った雑誌は600冊以上。
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