尾張徳川家の刀剣 ― 日本最大級の名刀コレクションが語る物語
徳川美術館が所蔵する尾張徳川家伝来の日本刀は約700振にのぼり、美術館が所蔵する刀剣として最大級の数を誇る。その中には国宝10振、重要文化財19振、重要美術品23振、名物刀剣※23振が含まれており、質・量ともに卓越したコレクションで知られている。
この背景には「御三家筆頭」としての尾張徳川家の家格の高さが大きく影響している。刀剣は武家社会の重要な贈答品であり、将軍家に次ぐ格式を誇った尾張徳川家には自然と最高級品が集まった。
また、尾張徳川家は徳川家康の遺品を多く相続したため、織田信長、豊臣秀吉など歴代為政者や戦国武将ゆかりの名刀も来歴とともに継承されている。尾張徳川家の刀剣コレクションは単なる武具の価値を超え、歴史を物語る重要な文化財として大きな意義を持つ。
※名物刀剣とは、優れた作品で固有名称が付けられた刀剣のこと。
<国宝 太刀 銘 長光 名物 津田遠江長光>
織田信長の愛刀であったが、本能寺の変の後、明智光秀が安土城から持ち出したと伝えられる。その後本能寺の変の報賞として家老の津田遠江守重久に与えられたため、この名が付いた。
<重要文化財 脇指 無銘 貞宗 名物 物吉貞宗>
家康の愛刀であり、権威の象徴として尾張徳川家歴代当主の家督相続儀式で継承された。「物吉」の銘は家康がこの刀を帯びて出陣すると必ず勝利したことに由来し、縁起が良いとされている。
【前期日程】燦然と並ぶ伯仲の名刀「本作長義」と「山姥切国広」
「刀 銘 本作長義」と「刀 銘 九州日向住国広作(号 山姥切国広)」は、その姿が非常に似ており、本歌(本作長義)と写し(山姥切国広)とされる。双方が現存し、重要文化財に指定されている唯一の存在である。
「本作長義」は北条氏直より長尾顕長へ下賜された名刀。顕長は小田原合戦で籠城が長期化する中、北条方として最後まで戦う覚悟を示すため、刀工・国広にその旨を銘文として刻ませた。国広が顕長のために作ったのが「山姥切国広」である。
顕長の所持から約100年後、「本作長義」は尾張徳川家の所蔵となり名古屋に保管、「山姥切国広」は2024年に作刀地とされる足利市で継承されることとなった。
前期日程(6/14~7/27)では「伯仲燦然」と題し、この2振を同時公開する。
<重要文化財 刀 銘 本作長義天正十八年庚寅五月三日二九州日向住国広銘打 長尾新五郎平朝臣顕長所持 天正十四年七月廿一日 小田原参府之時従 屋形様被下置也 徳川美術館蔵>
<重要文化財 刀 銘 九州日向住国広作 天正十八年庚寅貳月吉日平顕長(号 山姥切国広) 公益財団法人足利市民文化財団蔵 (前期公開:6/14~7/27)>
【後期日程】東京の名刀たちが名古屋に集結
天下五剣の一つで最も美しいと評される「三日月宗近」、名工正宗の最高傑作と称される「日向正宗」、徳川美術館所蔵の「鯰尾藤四郎」と同じ逸話を持つ「岡田切」など、刀剣史に輝く名品が後期日程に登場する。
<国宝 太刀 銘 三条 名物 三日月宗近 東京国立博物館蔵(7/29~9/7)>
<国宝 短刀 無銘正宗 名物 日向正宗 三井記念美術館蔵(7/29~8/11)>
刀装で決まる名刀の役割
江戸時代の大名文化において刀剣がどのように扱われたかを考える際、拵(こしらえ)や鐔(つば)などの刀装が重要な役割を果たした。刀装にはTPOに応じたルールがあり、場にふさわしい装束や衣服とともに用いられた。
儀式用には華麗な太刀拵、公的な場では蝋色塗(黒塗り)の大小拵、私的な場では好みに合わせた装飾のある大小拵など、大名は場に応じた刀装を施し、刀剣にも役割が与えられていた。
本展では名刀を彩った上質な刀装の数々も紹介する。
<重要文化財 朱漆塗雲龍蒔絵鞘大小拵 尾山神社蔵(8/12~9/7)>
<葵紋散螺鈿黄金造太刀拵 徳川美術館蔵>
刀剣乱舞ONLINEとのコラボレーション
会期中、刀剣乱舞ONLINEとの2つのコラボレーションを同時に実施する。
時をかける名刀×刀剣乱舞ONLINE
三日月宗近、南泉一文字、五月雨江、山姥切長義、山姥切国広、物吉貞宗、鯰尾藤四郎、後藤藤四郎、日向正宗。
内容:徳川美術館所蔵刀剣をモチーフにした刀剣男士6振の描き下ろしイラスト6種展示、刀剣男士9振の等身大パネル展示、コラボグッズ販売、刀剣男士鯰尾藤四郎のコラボトラック付き音声ガイド販売(斉藤壮馬さん案内)。
伯仲燦然×刀剣乱舞ONLINE
山姥切長義、山姥切国広。
内容:描き下ろしイラスト1種展示、コラボグッズ販売。
「時をかける名刀」特設サイト
https://www.tokugawa-art-museum.jp/touken2025/
展覧会概要
- 名称:徳川美術館・蓬左文庫開館90周年記念 夏季特別展 「時をかける名刀」
- 会期:2025年6月14日(土)~9月7日(日)
前期日程:6月14日(土)~7月27日(日)
後期日程:7月29日(火)~9月7日(日) - 開館時間:10:00~17:00(最終入館16:30)
- 休館日:月曜日(ただし7月21日、8月11日は開館。7月22日休館)
- お盆期間(8月5日~17日)は休まず開館
- 会場:徳川美術館 本館展示室/名古屋市蓬左文庫展示室
- 料金:一般1,600円、高大生800円、小中生500円
- 前期土日祝入館はオンラインチケット購入必須、割引適用外、団体不可
主催
徳川美術館・名古屋市蓬左文庫・中日新聞社・日本経済新聞社
特別協力・協力
特別協力:足利市・公益財団法人足利市民文化財団
協力:株式会社ニトロプラス・株式会社キテラス
オンラインチケットサイト
https://www.e-tix.jp/tokugawa-art-museum/
※前期の土日祝は日付指定チケットの事前購入が必要。その他日程はオンラインチケットで日付指定不要。
徳川美術館
〒461-0023 名古屋市東区徳川町1017
電話:052-935-6262(月曜除く10:00~17:00)
アクセス
- JR中央本線「大曽根」駅南口より徒歩8分
- 市バス・名鉄バス 基幹2系統「徳川園新出来」下車徒歩3分
- 名古屋観光ルートバスメーグル「徳川園・徳川美術館・蓬左文庫」下車すぐ
- 美術館南側に無料駐車場17台あり
開館時間・休館日
10:00~17:00(最終入館16:30)
月曜休館(祝日の場合は翌平日休館)
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