AM・FMの定石を無視したアンチラジオスタイル|山田ルイ53世インタビュー

山田ルイ53世は、AM、FM含めて、ラジオで3本のレギュラー番組を抱える人気パーソナリティだ。本誌「昭和50年男」3度目の登場で、自身の主戦場であるラジオについて話題を振ると…。ラジオへの熱い思い入れとは真逆の自然体のゆる~い男爵トークをご堪能あれ!

“FM=スカした感じの象徴”の切り口は、もうお腹いっぱい!!

「僕は正直、FMラジオってあまり聴いたことなくて。小林克也さんや赤坂泰彦さんがFMの代名詞的なDJってことは知ってるけど、番組を聴いたことはない。『FMってスカしたヤツやろ?』っていう定番の切り口でしか認識してなかった」

冒頭から正直すぎる言葉でFMラジオの印象を語ってくれたのは、髭男爵の山田ルイ53世(以下、男爵)。現在、AM、FM含めて、3本のラジオ番組のレギュラーを務める人気パーソナリティである男爵。彼の魅力は、歯に衣着せぬ自然体トークと、愚痴、妬み、嫉みといった誰に媚びることもない本音トーク。

「だから、自分がbay fmでしゃべるようになっても、『FMっぽくなくてすいません!』って言ってましたし。“FM=オシャレでスカした感じの象徴”としかとらえてなかったんです。そんなことを話してるうちに、『FMやAMやっていう切り口も、もはや古くてダサいな』という気持ちになってきて、今に至っています」

新番組に対するアンチの声が押し寄せた

2022年4月、bay fmの大型改編で始まった、平日夕方の帯番組『シン・ラジオ-ヒューマニスタは、かく語りき』。木曜ヒューマニスタとして抜擢され、FM番組を初めて担当した男爵だが、実際にやってみてわかった、AMとの感触の違いは?

「僕はほぼ感じなかったですけど、長いこと聴いてるリスナーは違和感あったみたいで。『しゃべりがAMっぽい』とSNSでつぶやいたり、メールで意見してきたりして。パーソナリティもリスナーも、“FM感”みたいなものに縛られてるところはありましたね。実際、他の時間帯の番組を聴いてると、FMっぽいなと僕も思いますし。自分がそうじゃないのもわかってますし。FM感を出す時は、声を低めてええ声でしゃべるとか、英語で発音よく言うとか。ボケとしてそれをやる時はありますけど、カッコつけてるみたいで恥ずかしいんです」

リスナーの求めるFM感や内容との齟齬に加え、大型改編への反発とも向き合わなければいけなかったという男爵。

「『シン・ラジオ』が始まる前にやってたのが、『The BAY ☆LINE』という30年続いた長寿番組やったんで、前の番組を聴いてた人からの反発もすごくて。『前の番組の方がよかった』とか、『bay fmの判断ミスだ』とか、SNSでボロカス言われるなかで(自分の)担当曜日がきて。『これはマズイ』と思ったんで、最初の放送で『ハッキリ言うけど、bay fmが悪い。これは完全なるbay fmの判断ミスや。俺はお前らの味方や!』って言うたんです(笑)。『大丈夫。木曜だけでも責任もって半年で終わらせるから』ってリスナーを丸め込んで。結果、僕の木曜だけ無傷で終わったんです(笑)」

汚ぇなぁ! と思うが、これがここまでの経験から培った、男爵の対処法。

「僕がそんな人間じゃないのは、作家もスタッフも知ってる。『お前らの味方や!』って言った時、これまでのスタンスがフリになって自然にボケになったのがやりやすかったです」

反則にも近い立ち居振舞いだが、ここにはラジオに対する男爵独自の考えがあった。

「僕、決まったことに文句言うヤツが嫌いなんです。だから改編に関しても、『お前ら関係ないやろ!?』と思ってるし。ラジオでリスナーに寄り添うとか、気持ち悪いと思ってる人間なので。『ラジオに救われた』とか言う人もいますけど、僕はラジオが人を救うと思ってないです」

「ラジオは人を救わない」と断言する男爵だが。その裏づけとして、リスナーとしてラジオに触れていた自身の経験があった―。

ラジオは引きこもりの僕を救ってくれなかった

「ラジオは小さい頃にオカンが朝に流してた、浜村 淳さんや道上洋三さんの番組をなんとなく聴いてたのが最初。自分で一生懸命聴いたのは、北野 誠さんの『誠のサイキック青年団』(ABCラジオ)やダウンタウンさんの『MBSヤングタウン』(MBSラジオ)でした。むちゃくちゃおもしろくて、『ラジオでこんなにおもしろいんか!』って驚きました。基本的にタレントさんがやるラジオって、テレビに出てる時よりつまんないって認識だったし、実際そういう番組もあったけど。今はラジオでおもしろいと評価されようとする芸人が増えた。いい時代になったなと思います」

男爵が部屋に引きこもったのは中学時代。20歳まで続く引きこもり生活のなか、数少ない娯楽がラジオだった。

「自分の部屋にテレビもないんで、外の世界に触れるのがラジオぐらいしかなくて。ええ言い方すれば、ラジオが“外の世界に触れる窓の一つ”やったんですけど。ラジオは僕を救ってくれなかったです。ラジオで『夏がきたぜ、元気よく外に飛び出そう!』みたいにポジティブソングがかかっても、『こっちは元気なく、引きこもっとんねん!』って話で。その前向きさがシンドくて仕方なかったです。恋愛ソングとか、前向きな曲が本当に苦痛で。それもある種の刺激と考えれば、救われてたのかもしれないですけど」

リスナーに寄り添い、気分を盛り上げるポジティブな歌も、孤独と対峙し続けていた男爵には残酷に響いた。

「十代の子が聴く番組やと、僕と同世代のリスナーからお悩み相談みたいなはがきがくるんですよ。恋愛がどうやとか、学校の勉強がどうや言ってるどの悩みよりも、当時の僕のもってた悩みの方がデカいし、切羽詰まり度では絶対に上やったから。ラジオは外の世界に触れるツールでもあったけど、自分の惨めさや行き詰まってることを、否が応にも自覚させられる装置でもありました」

ラジオで同世代の悩みに答えるパーソナリティの言葉は、男爵がいる深い闇までは届かなかった。

「だから僕は『来月受験なので、がんばれ!って言ってください!』とか、『お誕生日おめでとうって言ってください!』というメールに、『がんばれ』とか『おめでとう』って言うたことないんです。というのも当時、『がんばれ』とか言うてるパーソナリティを『心の底から言うてる?』と疑ってたし、『そんな上っ面の言葉では救われへん』って気持ちがあったからなんです。だから、僕は『無責任にお誕生日おめでとうとか言わない』って、ポリシーをもってやってます。イヤなパーソナリティですよね(笑)」

一見サービス精神に欠ける、イヤなパーソナリティに見えるが、一方で男爵の嘘のない言葉に共感し、本音で語るトークに深く共感するリスナーが多くいるのも事実。

「ラジオはテレビと比べて、ひとつの話をするのに言葉を尽くせるよさはありますよね。ただ僕がやってる番組って、華やかな話が一切ないんですよ。『この間、バラエティ番組出た時に』みたいな話はひとつもなくて。『この間、三重の四日市に企業パーティの営業に行ったんですけど』とか。あんまりいないですよ、地方営業に行った話をするパーソナリティなんて(笑)。でもそこが盲点で。普通、ラジオは売れっ子がやってて、一発屋と言われる僕みたいな人間がやることってないんで。そこで話す内容とかも、差別化できてるかな?って」

ラジオをやるのは芸人として正気を保つため

「男爵のラジオがおもしろい」と話題になったのは、文化放送『髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ』。現在はポッドキャストと全国3局ネットで放送中。放送形態を変えながら、16年目に突入した長寿番組だ。

「地上波で放送されてると思ってたら、文化放送から勝手に“ポッドキャストオリジナル番組”って名づけられてたり。コツコツとたくさん石を積んで、これでお父さんお母さんに会えると思ったら、鬼がバーン!って蹴散らす、三途の川みたいなサイクルでずっとやってます。(笑)」

男爵のトークには有名人のファンも多く、SNSでも定期的に話題に上がる。

「石野卓球さんと東野幸治さんと麒麟の川島さんが、『ルネッサンスラジオ』の後見人になってくれてる感じです(笑)。東野さんは文化放送で『YouTube 15時間生配信』をやらされた時にゲストで来てくれたりして。コツコツやってたら観てくれてる人もいるって言うたら美談っぽくなりますけど、それが美談になるのは大きく花を咲かせてこそですから。正直、『なんぼほどコツコツやったらええねん!』って思いますよ。バッドエンディングの『ショーシャンクの空に』みたいな状態で、やわらかい土の壁を掘り続けてるのに全く先が見えなくて、『いつになったら独房から出れんねん!』って状況ですから(笑)」

しかし、文句を言いながら壁を掘り続け、脱獄できないところにこそ、男爵のおもしろさがあるとも言える。

「東野さんが昔、『ルネラジ』のことを話してくれて。『文化放送の悪口とかむちゃくちゃ言ってておもしろいけど、売れるか追放されるかどっちか。多分、追放される』って言うてて(笑)。現時点で追放されてないんでよかったなと思うんですけど、売れてもいないですからね。確かに潜水艦と一緒で、海面に出ても意味ないし、海底にへばりついても意味ない。いつまでも、その狭間を漂っていないといけないんです」

そんなこと言いながら、変わらぬモチベーションで続いてるラジオの魅力とは?

「他の人はどうかわかりませんが、僕に限ってはしゃべり手として芸人として、正気を保つためにラジオをやってるみたいな部分はありますね。今は『ルネラジ』やって、『キックス』やって、『シン・ラジオ』やって。3時間半と3時間の生放送に加えて、1時間くらいしゃべってるんで、週に8時間くらいしゃべってるんですけど。それをすることで『俺まだしゃべれてる、大丈夫』って確認作業をしているところはあります」

週に8時間しゃべることが苦になる時もありそうだが。それを苦としない、男爵ならではのスタンスがある。

「ラジオパーソナリティたるもの、しゃべることが尽きないようにいろいろ動いて、ネタを集めなきゃいけない、みたいな話あるじゃないですか? あと、番組が始まる1〜2時間前にはスタジオに入って、メールをしっかり読んで番組の構成を組み立てて本番に挑む、とか。僕、そういうラジオ界隈の鉄則みたいなことを一切やらずにきたんですよ。やり方は人それぞれあると思うんですけど。僕はセオリーに沿うのが、ちょっと苦手なところがあって。あらためて考えてみると、アンチラジオが僕のスタイルなのかも知れない。リスナーへの接し方にしろ、ラジオのためのネタ作りにしろ、いわゆるラジオ的な常識とは真逆のことをやってきてますから」

ラジオらしくないこと、FMらしくないこと。男爵はセオリーや常識にとらわれず、自身のやり方や信念を貫く。

「…いや、単純にFMのパーソナリティって、おもしろいとかじゃないじゃないですか?(笑)おもしろ漫談じゃなくて、カッコよくてさわやかな感じを求められてるからそうなってるだけかもですけど。あとこれも偏見ですけど、FMのパーソナリティで兄貴風吹かすタイプが好きじゃなかったり(笑)。だからFM聴いてなかったのかも知れないですね」

盛り上がってる!? ラジオは斜陽産業ですよ

この正直さこそ、男爵の魅力!(笑)それでは、FMをやってわかった、AMにない魅力を上げるならば?

「僕が知ってる限りですが、スタッフさんが優秀ですね。優秀というか、職人気質の人が多い。たとえば生放送中に、オープニングでちょっと触れたアーティストの曲をすぐ探してきて、かけてくれたり。曲に限らず効果音的なことも、なぜかキジの話をよくしてた時があったんです。キジの話を始めた数分後には、キジの鳴き声が用意されてました(笑)。『シン・ラジオ』の佐々木ってディレクターなんですけど、彼はすごく音とかタイミングにこだわる人で。当意即妙というか、その場でパパパッと音を作って、タイミングよく入れてくれたり。音の職人といった印象はあります」

そんな優秀なスタッフが揃うbay fmだが。男爵から見てやりすぎた感があったのが、番組の三橋美智也ブーム。

「あれは僕もようわかってないんですよ(笑)。カールのCMソングを三橋美智也さんが歌ってるって話をしてて。ディレクターがさっと曲をかけたんで、『伸びやかなええ声やな』なんて言ってたら、僕がハマってると思って、三橋美智也の曲を毎週かけ始めて。僕には『よくわからない企画も否定するのが邪魔くさいから、与えられた素材をがんばっておもしろくする』というポリシーもあるんで。ずっと乗っかってたら、スペシャルウィークのゲストが、三橋美智也さんと仕事をしてたキングレコードのディレクターと長年ファンクラブをやってる方で。『スペシャルウィークのゲストがおじいさん3人って、どういうことやねん!』って(笑)。ま、そんなのも込みで楽しくやらせていただいてます」

ラジオにおける自身の立ち位置を、潜水艦にたとえていた男爵。いつか海底に財宝が見つかるその日まで、男爵には海底を漂い続けてほしい。

「いや、いくら漂っても財宝は見つからないですよ。ラジオは斜陽産業ですから(笑)。この雑誌もそうかも知れないですけど、ここ数年、“今ラジオが熱い”みたいなことを急に言い出してるじゃないですか? でも、それ“ナメられてる”ってことですからね!? よく売れっ子のタレントさんが、『今ラジオをめっちゃ聴いてるんですよ!』って、自分のキャラ立ちにラジオを利用しますけど。それってニッチな存在やと思われてるってことですからね。知らん人は、『ラジオ盛り上がってますよね?』とか言いますけど、『いや盛り下がってるから、その扱いやねん』って。つまりいちばん言いたいのは、売れっ子が自分の不思議キャラを際立たせるために『ラジオ好きです』とかアピールしてるのを、ラジオの人間はうれしがるな!ってことです(笑)」

放送形態を変えて続く長寿番組『髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ』(毎週月曜日更新)
2008年に文化放送でスタートし、2010年4月以降はポッドキャストで配信。山田ルイ53世が愚痴・僻み・妬み・嫉み…そして愉快なメールとトークでお送りする痛快な番組。
https://podcastqr.joqr.co.jp/programs/hige

『シン・ラジオヒューマニスタは、かく語りき』(bay fm/月〜金曜16〜19時54分〈金曜のみ16時〜18時42分〉)
強い、濃い、熱い、厚い! 言葉の浸透力をもった“ラウド・スピーカー“”たちが曜日ごとに登場する人間特化型・情豊ワイド番組。5曜日5者5様、「ヒューマニスタ」として情に豊かな“シン=親”近感、“シン=真・芯”の感動を、ダイレクトに伝えている。山田ルイ53世は木曜日を担当

 山田ルイ53世/やまだるい53せい|昭和50年、兵庫県生まれ。ひぐち君とのコンビ髭男爵として活動するかたわら、ソロでは『髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ』(文化放送)『はみだししゃべくりラジオキックス』(山梨放送)といったラジオ番組に出演している

(出典/「昭和50年男 2023年11月号 Vol.025」)

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昭和50年男 編集部
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昭和50年生まれの男性向け年齢限定マガジン

昭和50(1975)年生まれの男性に向けて、「ただ懐かしむだけでなく、ノスタルジックな共感や情熱を、明日を生きる活力に変える」をテーマに、同世代ならではのアレコレを振り返ります。多彩なインタビューも掲載。
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