GRが、やっぱり欲しい。スマホ時代にコンパクトカメラを持つ理由。

今は昔。「コンパクトカメラ通信」という雑誌(ムック)を作った。2000年代の初めの頃だった。コンタックスTシリーズ、リコーGR、ミノルタTC-1、ローライ35など、歴代の魅惑のコンパクトカメラをぎっしり集めた。これらのカメラの魅力は今でも不変。手元にあったらすぐフィルムを装填し、鞄に入れて旅や散歩に出かけてみたくなる。でも、今やデジタルカメラを含めて「コンパクトカメラ」というジャンルは、ほぼ無くなりかけている。

コンパクトカメラの魅力は、軽くて小さいこと。だから鞄の隅に入れて、いつでもどこでも持ち歩くことができる。いい写真を撮るコツは、絶えずカメラを持ち歩くこと。シャッターチャンスとなる絶好の景色は、いつ、どこに現れるか予測できない。特にスナップショットでは、今!と心が動いた瞬間に取り出してすぐにシャッターを切ることができるカメラが必須となる。

小さくて良く写ることが良いカメラの条件だとすると、世の中の良いカメラは、ほぼスマホの中に組み込まれ、みんなが持ち歩いている時代となった。ではコンパクトカメラの存在する理由は無くなってしまったのか。その答えのひとつが「リコーGR」にある。

スマホカメラ時代に存在感を放つ、GR

GRシリーズは1996年から始まった。スナップシューターが求める性能と機能をストイックに追求し、極限まで小型、薄型化したコンパクトカメラだ。レンズの描写性能はかなり高く、同じ設計の単体レンズがライカスクリューマウントで作られ、カメラファンを(もちろん自分も)熱狂させた。デジタル時代になると、GRデジタルが2005年からスタートした。

自分の「GR史」は、1996年の初代GR1から始まり、その後の改良モデルや、初代のGRデジタルなど、GRシリーズのほぼすべてのモデルを愛用してきた。今、鞄には最新のGRⅢが入っている。

撮る道具としてスマホの出番が圧倒的に多くなってしまった。撮りたい、と思った時のほとんどに自分の傍らにはスマホがあるからだ。自分が今使っているスマホは、握ったまま2回振るとカメラが瞬時に起動する。側面には専用のシャッターボタンも付いている。まばたきするように、撮りたい光景を次々と取り込んでくれるのだ。

でも道具としてスマホをじっくり眺めていても、あまり楽しい気分にはなれない。つまり、撮る気分を盛り上げることもない。

GRは、万年筆に例えればパイロット・キャップレス、ボールペンならラミーピコのような存在。鉛筆に例えたらUFOパーフェクトペンシルあたりか(廃盤になってしまったけれど)。機能に徹し、無駄を一切省いた形がとても手になじむ。その姿を眺めているだけで、撮りたくなる。

GRⅢが登場した時のカタログは秀逸だった。カタログの紙面には、画素数が○○とか、手ブレ補正が〇段分で良くなって……、といった商品説明はほぼ見当たらない。ひたすらこのカメラで撮ったスナップショットがドーン、ドーンと大胆に載っているだけ。ここ数年で見かけたカメラのカタログの中でも、ずば抜けたセンスの良さを感じた。このカタログを眺めた翌日、ヨドバシカメラに走っていた。

気になるのは、最新のGRⅢx

2021年に最新のGRⅢxが出た。すぐ欲しいと思ったが、まだヨドバシには走っていない。焦点距離は準広角の40mm相当。40mmレンズの画角は、以前愛用していたライツミノルタCLやオリンパスのズイコー40mmF2で体に染みついている。35mmが5mm伸びただけなので「準広角」とよく言われるけれども、自分の感覚で言うと「準標準」だ。標準レンズの50mmの画角は自分は狭く感じるし、中望遠に近い。40mmこそ、見ために近い自然な画角で、背景の情報が適度に入り込んでくる絶妙な焦点距離だと思っている。

28mm相当のGRⅢ、そして40mm相当の最新モデル。この2台を鞄に入れて、遠くへ旅してみたい。心が動いた光景を、極上のアングル、露出で露光してくれる確信(時に錯覚)を引き起こす。上質なコンパクトカメラは旅へと誘う。「外へ、遠くへ」と気持ちを揺さぶるのだ。

この記事を書いた人
清水茂樹
この記事を書いた人

清水茂樹

編集長兼文具バカ

雑誌「趣味の文具箱」編集長。1965年福島県会津若松市生まれ。文房具に関する雑誌の編集、オリジナル文具の開発を担当。2004年に「趣味の文具箱」創刊し、世界中の文具メーカーの取材を勢力的に続け、最新の文具情報を発信。筆記具や文房具の魅力と、手で書くことの楽しさを伝えている。
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