「トライ&エラーの繰り返し、だからドラッグレースはやめられない」
ヴィンテージカー、バイクの楽しみ方は様々。長年生き続ける車体と対話を重ねて日常的な走りを楽しむ者、アナログな機械をいじることに喜びを感じる者、また、レースでポテンシャルの限界に挑む者、オーナーそれぞれに理想のモーターライフがある。
TT&CO.の職人を務める松井氏の愛車はクルマ、バイク共にストリート/レース兼用。ヴィンテージを現代に蘇らせるヘルメットメーカーの職人だけに、ヴィンテージバイクは若かりし日から身近な存在であり、HDショベルヘッドのフリスコに長年乗り続けていた。そして、約7年前に手に入れたのが’47年式Indian Chiefである。OHVからサイドバルブへ、チョッパーからストックへ、それまでの好みを一新するほどにIndianとの出会いは松井氏にとって新鮮な感覚だったのだと言う。
「このChiefを初めて見た時に、サイドバルブの音や鼓動が心地よく感じたんです。コロコロと優しい雰囲気だけど回せばよく回る。当時50歳手前の自分にはフィーリングや落ち着いたスタイリングがしっくりときたんです。このバイクのビーチレースはあくまでもストリートの延長、勝つ事よりもストック基調の仕様のままどこまでやれるかを楽しんでいます」。
そして、ストックスタイルのバイクに対して、クルマは’60年代のドラッグレースをルーツとするギャッサーである。ギャッサーは当時NHRAのレースにて、ストリートレーサーを呼び込むために設けられたガスクラス(ガソリンスタンドで入手できる一般的なガソリンを使用)に端を発する。また、ガスクラスでは、灯火類の装備や4枚のフェンダーの装備、ホイールベースを変更しないことなど、ストリートリーガルを前提とするレギュレーションが定められていた。その中で高性能なグリップ力のタイヤがない時代に、フロントを上げてリアにトラクションをかけることを狙ったモディファイが、この’36年FORDに見られる’60sギャッサースタイルである。日本ではあまり馴染みがないが、松井氏は長年アメリカのドラッグレースに憧れを抱き、雑誌を読み漁り、国内のレースに通い続けていたため、初めてのアメリカ車でギャッサーを目指したのは必然だった。5年前に車両を手に入れてすぐ千葉県のジャニスカーサービスに持ち込んだ。当時の時代考証を踏まえたストリート&ストリップをコンセプトにモディファイを重ねながら街乗りや通勤の足として使用し、国内のドラッグレースにも参戦し続けている。
「ドラッグレースは爆音を奏でながらバーンナウトして、思いっきりアクセルを踏み込む非日常的な緊張感が堪らない。シンプルなレースですが、コース以外に練習できる場所もないし、ぶっつけ本番で経験値を積み重ねるしか成長する術はない。タイムが明確に出るから毎回何かを変えて挑戦するのですが、うまくいくことばかりではなくトライ&エラーの繰り返し、まるで人生の縮図のようです(笑)」。
謙遜して話す松井氏だが、もてぎストリートシュートアウトではクラス優勝に輝いたこともあり、カスタムのコンセプトを見事に体現している。ストリートでは肩肘張らずにオールドモーターのフィーリングを堪能し、レースでは自分自身の目標と向き合い進化を目指す。勝敗だけに固執するのではなく、また流行に左右されることなく、自分自身のスタイルを追求する大人のモーターライフは実に豊かだ。




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