海軍由来の銘品たち。戦争をきっかけに発展した腕時計。

腕時計には戦争をきっかけに発展を遂げた歴史があり、海軍と縁がある傑作も数多い。BLANCPAIN、IWC、Breguetの注目モデルから、そのルーツに触れる。

1.各国の海軍に納入されたブランドの代表作。

1735年、スイス・ジュラ地方の小村ヴィルレで工房を立ち上げたBLANCPAINは、現存する最古の時計ブランドであり、一貫して機械式時計のみを作り続けている。

近代のダイバーズウォッチの始祖のひとつと謳われる、1953年に発表されたフィフティファゾムスは、今日では不動の地位を築いている。その物語はBLANCPAINのCEOジャン=ジャック・フィスターと、フランス軍のロベール・ボブ・マルビエ大尉との出会いから始まった。モデル名の由来である50ファゾムスは約91.45mを意味するもので、これは当時のスキューバで潜水できる最大深度に値する。

画期的な防水システムは、2つのOリングを内蔵する二重密閉構造のリューズシステム、ねじ込み式の裏蓋にあるOリングをスクリューリングで固定する方法によって実現。さらには、潜水時間を測定するための回転ベゼルをロックする機構を備えており、この3つはすべて特許を取得している。

優れた機能による信頼性は群を抜いており、フランスのみならず、アメリカ、ドイツ、イスラエルなどの海軍のエリートたちに支給された。この逸話は今もなお伝説として語り継がれている。

BLANCPAIN Fifty Fathoms Automatique

Ref.5015 1130 52A、自動巻き(Cal.1315)、ステンレススチールケース、径45㎜、300m防水

2007年から現行コレクションに加わったフィフティファゾムス オートマティックは、記念碑的なダイバーズウォッチの伝統を最も色濃く受け継ぐオーソドックスな3針モデル。タフネスと信頼の証でもある300mの防水性能に加え、搭載された自動巻きムーブメントCal.1315は約5日間のパワーリザーブを備えている。ステンレススチールケース以外にもレッドゴールドケースやチタンケースから好みのスタイルを選ぶことができる。¥1,914,000_

フランス海軍の特殊部隊のために開発された初代フィフティ ファゾムス。視認性に優れたベゼルやインデックスなど、この時点で基本的なデザイン完成していたことが確認できる
フィフティ ファゾムス誕生の立役者のひとり、フランス軍のロベール・ボブ・マルビエ大尉。彼がブランパンにダイバーズウォッチの製作を依頼したことで不朽の傑作が生まれた
1960年頃半ばに発表されたフィフティ ファゾムス ノー ラディエーションは、6時位置のロゴスタンプが特徴。その一部がドイツ海軍の潜水戦闘部隊で使用された

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2.無類のタフネスを誇るトップガンシリーズ。

スイス屈指のパイロットウォッチの名門として名を馳せるIWC。1936年から始まった同社のパイロットウォッチの歴史において、1948年に誕生したマーク11は、強力な電磁場を発生させるレーダー装置に対し、軟鉄製のインナーケースを搭載することで解決に導いた不朽の名作であり、軍用時計のベンチマークとして今もなお愛され続けている。

今現在、IWCはスイスで唯一となるアメリカ海軍及び海兵隊が使用するパイロットウォッチの開発ライセンスを供与されている時計ブランドであり、飛行隊との協力から現役隊員と元隊員だけが購入できるスペシャルエディションを手掛けた実績がある。

アメリカ海軍とのパートナーシップによって2007年から始動したトップガンシリーズの名称は、アメリカ軍の戦闘機戦術教育プログラムが通称トップガンと呼ばれることに由来する。該当するモデルはすべて、過酷な環境に対応するために考え抜かれた設計や素材使いによって、多大な負荷に耐え得るタフネスを有している。

最新作のパイロット・ウォッチ・クロノグラフ・トップガン 〝ウッドランド〞は、ダークグリーンセラミックを用いた男心をくすぐる佇まいが話題になっている。

IWC PILOT’S WATCH CHRONOGRAPH TOP GUN EDITION “WOODLAND”

Ref.IW389106 、自動巻き(Cal.69380)、セラミックケース、径44.5㎜、60m防水、年間1000本限定生産

IWC史上初となるケースにダークグリーンセラミックを採用した話題作。モノクロームによるカラーリングは、トップガンパイロットのフライトスーツや制服、あるい彼らがトレーニングを行う空域のある広大な森の風景からインスピレーションを得たものだ。プッシュボタン、リューズ、トップガンのロゴがエングレーヴィングされたケースバックには、IWCが開発した新素材セラタニウム®を使用。現在は入手困難な状況が続いている。¥1,435,500_

ミリタリーテイストを彷彿させるダークグリーン単色のスタイリングを、高度な製造技術が要求されるカラーセラミックで実現させたことが、いかにもIWCらしい
このモデルの魅力を語る上で欠かせない、布製インレイが付いたグリーンのラバーストラップ。ダークグリーンのセラミックケースを一段と精悍な表情に引き立てている
マットブラックの新素材セラタニウム®製ケースバックの中央には、トップガンのロゴなどを施した。ケース内部は磁気への対策として、耐磁性軟鉄製インナーケースを搭載

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3.現代的に再解釈されたクロノグラフの金字塔。

今から遡ること1950年。フランス海軍は航空機パイロットのためのクロノグラフを製造するためにBreguetへ腕時計の製作を依頼。そこで約4年の開発期間を経て完成したのが、フライバック機能を搭載したクロノグラフ、ステンレススチール製の回転ベゼル、ねじ込み式のケースバックなどの特徴を備えたBreguet版のタイプ XXだった。その後も仕様を変更しながら1980年代まで製造が続いた。

1995年には、初の市販化モデルとして、タイプ XX アエロナバル Ref.3800が発売。このモデルは1958年に登場したモデルを大幅にアップデートしたものであり、新しい自動巻きムーブメントの採用やケースの側面にコインエッジを施すことで、前時代のタイプ XXでは見られなかったスタイルを提案。この爆発的なヒットによって、Breguetはさらなる飛躍を遂げた。

1950年代から続くタイプXXの伝統は、Breguetの現行モデルにも受け継がれている。2004年にセンター積算計と昼夜表示を備えたタイプ XXI、2010年には毎時7万2000振動を実現したハイビート仕様のタイプ XXIIを発表し、コレクションの拡充を図っている。

Breguet Type XX I

Ref.3817ST/X2/3ZU、自動巻き(Cal.584 Q/2)、ステンレススチールケース、径42 ㎜、100m 防水

こちらの2016年に発表されたタイプ XXI Ref. 3817は、Breguetの現行コレクションを代表する傑作であり、1950年代に制定されたタイプ XXIの規格に現代的な解釈が加えられている。落ち着いた印象のスレートグレーのダイヤル、旧き良き時代のパイロットウォッチの名残を残すアラビアンインデックスなどが醸し出すヴィンテージテイストと、XXIでは初となるサファイアクリスタルのシースルバックが絶妙なバランスで融合している。¥1,903,000_

通称アエロナバルと呼ばれるフランス海軍航空隊に納入された1950年代に製造されたタイプ XX No.4100。3時位置が15分積算計であることも特徴のひとつに挙がる
タイプ XXI Ref.3817のステンレススチール製のケースは、15.2㎜とかなりの厚みがある。滑らかな仕上げと側面にコインエッジを刻むことでラグジュアリーな雰囲気を演出
往年のタイプ XXが手巻きムーブメントだったことに対して、1995年に復活を遂げたタイプ XXのコレクションはすべて自動巻きムーブメントを採用している

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※情報は取材当時のものです。

(出典/「CLUTCH2023年2月号 Vol.89」)