かつて、渋谷を席巻した伝説の革ジャン「vanson」を知っているか?

1980年代後半、東京・渋谷。若者たちは、アメリカンカジュアルをベースにした独自のファッションに身を包み、ストリートを闊歩していた。“渋カジ”と呼ばれるそのスタイルの正装は、裾の擦り切れたベルボトムやブーツカットデニム、スチールトゥ入りのエンジニアブーツ、そしてアウターは、皆一様にパッチで彩られたvansonのレザージャケットを纏っていた。鮮やかな配色とレーシーな佇まいのvansonのライダースは、ストリートでは「力」と「強さ」の象徴だった。渋谷を根城とする屈強な男たちを魅了した、vansonのモノ作りの哲学に迫る。

時代が変わっても、モノ作りへの真摯な想いは変わらない。

かつてはLAUREL LAKE MILLSというウールを扱う紡績工場だった建物の5階部分をファクトリーとして使用。広大な面積を誇る

マサチューセッツ州フォールリバー。19世紀に国内繊維産業の中心地として栄えたこの街がvansonの本拠地。歴史を感じさせる威風堂々とした佇まいに思わず圧倒される。

現在vansonは、1898年に建てられ、かつては紡績工場として使われていたこの建物の1階をファクトリーショップとヘッドオフィス、5階をファクトリーとして使っている。vansonの創業は1974年。現在のCEOであるマイケル氏と、彼の高校時代からの親友であるジェイミー氏が、マサチューセッツ州ボストンにて共同で立ち上げたのが始まり。

2024年に創業50周年を迎えるvanson。「会社を大きくし過ぎず、あくまで自分が品質を管理できる規模を維持している」とマイケル氏。従業員との対話も欠かせない

当時、英国でレザージャケットを作っていた友人がマイケル氏のもとを訪れ、彼をファッションショーに招待した。そのファッションショーでレザージャケットに出会ったマイケル氏は、その魅力に憑りつかれたという。これが1974年春のこと。

その秋には、友人のジェイミー氏とvansonを設立したというのだから、マイケル氏の行動力には驚かされる。ちなみ「vanson」というブランド名は、マイケル氏(Michael Van Desleesen)とジェイミー氏(Jamie Goodson)、その二人の名前を合わせて名付けられた。

vansonの創業者で現在も代表を務めるマイケル氏。70歳という年齢ながら、いつも広大なファクトリーを歩き回っている。バイクが好きでノートンやBSAなど数台所有

現在vansonのファクトリーでは40名ほどの職人たちが、日夜汗を流している。世界中に溢れているva nsonのレザージャケットは、すべてここから生み出されているのだ。昔ながらの道具と最新鋭のハイテクマシンが同居し、クォリティを落とすことなく生産効率の向上を図っている。他にはない色を組み合わせ、斬新なデザインのジャケットを次々に生み出すvansonらしく、昔ながらの製法に恋々とするのではなく、新しい技術を惜しみなく投入し、日々進化し続けている。そんなモノ作りに対する革新的な姿勢が、世界中のライダーやレザーラヴァーに支持される理由に違いない。

コンピュータ制御の最新鋭レザー裁断機。コンピュータ画面を見ながらパーツ取りを行い、革の無駄も少ない。こうしたハイテクマシンを積極的に導入している
細かいレターを裁断する専用マシン。コンピュータに模様や文字をインプットすると、水圧でカットを行う。このマシンのおかげで作業効率が格段に上がったという

かつて、「渋カジ」の象徴として、ストリートに生きる男たちを魅了したvanson。しかし、そんな事実は、vansonにとって〝どうでもいいこと〞なのだ。若者の脚光を浴びようが、一世を風靡しようが、そんなことに気を取られることなく、黙々と革と向き合い、ライダーの命を守るジャケットを作り続ける。vansonの凄みはここにある。

ハイテクマシンを導入しながらも、昔ながらの職人の手による裁断も同時に行われている。裁断台はメイプルウッドを使った1944年製
レーシングスーツの縫製。vansonでは創業当時からレーシングスーツを作っており、安全性、機能性を最優先に考えたモノ作りを行っている
vanson のファクトリー横にある革のストックルーム。カラフルな色使いが特徴的なvansonだけに、レッドやブルー、ホワイト、イエローなど鮮やかな革が大量にストックされている

一日いても飽きない、レザーラバー垂涎の場所。

建物1階に設けられた、アーカイブスペース。vansonでは、過去にリリースしたモデルをアーカイブとして大切に保管している。ブランド創世記の貴重なモデルから、企業コラボまでファンにはたまらないお宝ジャケットがずらりと並ぶ。

建物1階のファクトリーショップには、ほぼすべてのラインナップがずらりと並んでいる。

vansonのレーシングスーツに身を包んだレーサーの写真やバイクなども飾られ、ファンにはたまらないスペースとなっている。

vansonが創業し、最初にリリースされた記念碑的モデルがこのMODEL A。少しずつマイナーチェンジを繰り返しながら、現在でもラインナップされている。

企業や他のブランドとのコラボレーションモデルが多いのもvansonの特徴。こちらはPUMAとのコラボモデルで’80年代製。

当時、渋谷を闊歩していたストリートキッズたちの憧れだったのが、このRJP。大胆な配色とレーシーなパッチカスタムが目を引く。

かつて渋谷の若者たちを熱狂させた往年の名モデルの数々は、今なおラインナップされており購入可能。こちらはvansonのアイコンである“ボーン”を大胆に配したBONE/LONG

パッチカスタムを施したTJP

真鍮パーツがワイルドな雰囲気を醸し出すC2

【DATA】
vanson
https://www.vansonleathers.com/

(出典/「CLUTCH2022年10月号 Vol.87」)