基本形は“レーサーレプリカ”。ボバーから始まったチョッパーの起源
現在、さまざまな手法やスタイルが存在するチョッパーの世界だが、その起源がここに紹介する「ボバー」である。
古くは1920年代にレース出場用車両のフェンダーをカットすることから始まったといわれるこのスタイルは、1930年にAMA(1924年に設立された米国のレース団体)が「ライダーが競技場まで自走で参加する」ことが規定のレースである『Cクラス』を開始したことで一般に浸透。
ちなみにボバーとは競走馬の「切り尾」や女性の髪形の「ボブカット」と同じ意味をもつ。あくまでもシンプルに軽く、が基本だ。
HAMMER SYCLE 1947 EL

現在のシーンに影響を与えたSINNERSの男たち



現在、高い人気を誇るオールドチョッパーだが、そのいまに続くシーンの起爆剤となった存在として忘れられないのが、ジェイソン・ジェシーやチョッパー・デイブ、コール・フォスターやジェフ・デッカーなどが所属したクラブ、「SINNERS」だろう。
2000年代初頭、まだ珍しかったオールド・チョッパーにスケーターやホットロッダー、ブルーカラー・ワーカー的なファッションに身を包んだ男たちがまたがり、走らせる光景は、それまでの“上下革”に“長髪”“ヒゲ”のバイカーシーンとは明らかに一線を画すものであり、まさに新たな時代を感じさせるムーブメントだったことが記憶に残る。
ちなみに彼らの存在があったからこそ、YOKOHAMA HCSがバイクエントリーをスタートさせるに至ったとムーンアイズ代表のShige菅沼氏が語るほどにいまのチョッパーシーンに大きな影響を与えたのは知る人ぞ知る事実だ。この時代の“熱”がまったくもって懐かしい。
適切なパーツチョイスがチョッパーらしい雰囲気の秘訣

レーシーなボバーからチョッパーへ……そんな変遷を経て発展を遂げたこの手のスタイルのマシンだが、逆に要点さえ抑えれば、どんなベース車両であろうとも“らしい”姿に仕上げることが可能だろう。
例えば、もともと50年代当時のバイカーたちが、それぞれのガレージで作り上げたことがチョッパーの起源といわれているのだが、キッチンにあったイスの脚を取り外し、装着することで生まれたというエイプハンガーやフェンダーのカットや変更、シートの小型化などが定番のモデファイ。これらはそもそも“個性”と“乗りやすさ”を求めて生まれたのだが、やがて徐々に装飾性を増し、チョッパーが発展していったという歴史をもつ。それを知れば、“チョッパーとはなんぞや”という答えが我々にも見えるのかもしれない。
Chopperdaves Casting Co The Super Freak

まだ旧車チョッパーがマイノリティな存在だった2003年、日本でも多くの人が周知するビルダー、チョッパー・デイブが“究極の60sスタイル”を目指して製作したのが、この「スーパーフリーク」。
当時のデイブが「現代を走るためのオールドスクール」と語っていたとおり、1340㏄に排気量アップされたパンヘッドはあくまでも性能が追求されており、あらゆる面でボバーの血脈を感じる仕様となっている。いまの時代に見ても色褪せない魅力を感じる一台である。https://chopperdaves.bigcartel.com
MOONEYES “MOON SHINE”

2002年からバイクのエントリーが開始され、09年より毎回テーマを変えた「ショースポットライト」が展開される我が国最大のアメリカン・カスタムの祭典、「YOKOHAMA HCS」だが、この記事で紹介するトラディショナルなチョッパーにスポットを当てた17年に「ムーンアイズ」がデモバイクとして発表したのが、ここに紹介するマシン。
出展テーマにあくまでも“伝統的な手法で生み出されたフォークの短いチョッパー”ということが掲げられたこの年だが、ムーンアイズのソレはまさに模範解答。製作を担当した横浜の「IMファクトリー」によって、実に美しい一台に仕上げられている。ちなみに今年のスポットライトはピーナツタンク装着車両がお題とのこと。こちらも実に楽しみである。https://chopperdaves.bigcartel.com
Shix Motorcycle 1946 UL

あたかもボバーからチョッパーへと変わる黎明期に生み出されたかのような雰囲気を漂わせるこの車両は大阪のシックスによる一台。古きよき時代に生産されたハーレーという素材はもともとがリジッドフレームゆえに、ハンドルの変更やシッシーバーの装着のみでチョッパーらしい姿となるのだが、こうした純正の魅力を活かしたマシンも魅力だ。http://www.shix-mc.com
HAMANS CUSTOM 1948 FL

美しいペイントワークやタンクやフェンダーの造形、そしてそれらが渾然一体となった姿など、どこをどう見ても隙がないクオリティに仕上げられたこの一台は滋賀県のハマンズが製作したもの。ちなみにこのマシンは2017年のHCSにて見事、スポットライトのアワードに輝いたのだが、それも納得。ご覧のとおりフィニッシュの姿はかなりハイレベルかつ秀逸だ。これぞ60sスタイルのチョッパーの手本といえるだろう。https://www.instagram.com/hamanscustom/
Indian Larry Grease Monkey

2000年代のチョッパーシーンを語る上で欠かすことができないビルダーの一人であるインディアン・ラリーの愛車、「グリースモンキー」もカテゴライズすると典型的なトラディショナル・チョッパーといえる一台だが、やはりその最大の特徴は“走り”を徹底して追求した部分。
シンプルなリジッドフレームに搭載されるパンヘッドエンジンはYポートをもつSTD製ヘッドに換装され、排気量は1450㏄なのだが、それが軽快な車体と相まって鋭い加速を見せつけるものとなっている。
ちなみにこのマシンの操作系はノーフロントブレーキにジョッキーシフトなのだが、これも可能な限りシンプルに軽く、無駄を省いた車体を求めるラリーの好みを反映したものであり、乗り手の力量ありきの仕様だ。きれいごと抜きであえていえばスタントライド中のアクシデントとはいえ、そんな彼ですら2004年に55歳の若さで命を落とした。チョッパーという乗り物の危うさを、我々は教訓として肝に銘じなければならないだろう。

人気のスタイルだからこそあえて語りたい注意喚起
現在のチョッパーシーンの中で最も高い人気となっている、この手のチョッパーだが、まずはここでもつき合う上での注意点から論じていきたいと思う。
例えば、この手のチョッパーの特徴として『ノーフロントブレーキ』や足でクラッチ、手でシフトを操作する『ジョッキーシフト』などがあるが、初心者が「単純にカッコいいから」という理由で気軽にチョイスするのはズバリいって危険だ。もちろん、チョッパーならではの操作感やスタイルのよさを否定する気は毛頭ないが「わかっている人間がわかった上で乗るべきもの」ということは絶対に理解しなければならない。制動距離や咄嗟のときの危険回避など一般的なバイク以上の慎重さが要求されるのはいうまでもない。
あえてこういうことをいうのは耳のイタイ話かもしれないが、かつてチョッパーが何故、滅びたかを考えれば、ここでいわんとしていることを多くの人がきっと理解してくれるはず。その上で触れるべきということを忘れてはならない。
(出典/「CLUB HARLEY 2025年10月号」)
text/M.Watanabe 渡辺まこと photo//M.Watanabe 渡辺まこと、T.Masui 増井貴光、S.Ise 伊勢悟
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