迷っている大人に手に取ってもらいたい


近藤 僕はスタイリストとして男性のパンツのシルエットにまず目がいくんです。今っぽいとかずいぶん前の雰囲気だな、というのはパンツのシルエットと大いに関係していて、だからそこが一番気になるところなんですけど、西野さんがパンツに特化しているのはなぜなんですか?
西野 ブランドを始めた当時は細身のシルエットのパンツが主流だったんですが、太ももとふくらはぎが張っている体型だとそれは似合わない。そこを解消できれば日本人ももっとおしゃれになるんじゃないかなと思って、パンツ専業ブランドを立ち上げました。トータルでブランドを展開するお金がなかったというのもありますけど(笑)。僕らがやっていることってすごく中途半端なんですよね。
近藤 中途半端っていうのはいいですね。そういう誰もやらない道筋は僕も好きです。今日、着ていらっしゃるブレザーはオリジナル?
西野 はい。僕らは前ダーツのないボクシーなジャケットをやっているんですけど、最近はうちのワイド・パンツに「サウスウィック」みたいなシェイプの効いたジャケットもかっこいいんじゃないかと思ったり。だから合うと思うジャケットは時代によっても変わりますね。自分は「ブルックス ブラザーズ」出身ということもあってドレスっぽいものは好きなんですが、でも基本的にカジュアルのフィールドでやっている。だからドレスの人からすると「なっていない」、でもカジュアルの人からは「ちゃんとしたジャケット作ってますね」といわれます。
近藤 今日、僕が持ってきたこのブレザーの第一印象はどうでしたか?
西野 まず、見たことがないぞ、と思いました。「ニューメキシコ・ブレザー」って雰囲気ですよね。詳しくお話を聞きたくなりました。
近藤 アメリカン、イタリアンとか何風といったこともなく、そのあいだをゆくようなシンプルなブレザーを作りたかったんです。それでコンチョ・ボタンにしてみたり。
西野 このボタンは……?
近藤 本物のコインを叩いてコンチョにしてます。
西野 ウォー! こういってはなんですがアホなことしてますね(笑)。最高です。
近藤 胸ポケットもなくして極力シンプル、作りも凝りすぎずに軽く仕立てています。
西野 大先輩である近藤さんは、どうやってその境地にたどり着いたんですか?
近藤 高級とされるものをいろいろ通過してきましたが、近年はお金をかけて得られる満足感や優越感よりも、「豊かさ」が大切なんじゃないか、そんなふうに思うようになりましたね。だから、以前はあれこれ着ていたけれど年齢を重ね、家庭を持ったりして、ふと見返したら昔の服しかなくてどうしたらいいか迷っている大人に手に取ってもらいたいんですよ。そういう人たちにもっと洋服を楽しんでもらって、豊かな人生を送ってほしい。その意味で、手が届くプライスで提供するのがとても重要なんです。話は変わりますが、淡路島のお店、いいですね。
西野 ありがとうございます。帰省って少し義務的なところがあると思うんですけど、そこに仕事をくっつけたらもっと楽しくなるんじゃないかと思って出店しました。親孝行にもなるかな、と。
近藤 今、僕は千葉県の一宮町と東京の二拠点なんです。一宮は母方の祖母の家があって。そこを改修してその一角を「ストリーマーコーヒー」の店舗にして、こうした服とか生活雑貨なんかも少し販売しているんです。ちゃんとバリスタの修行をしてコーヒーを淹れているんですよ。で、そういう振れ幅のある生活をしているうちに、ピラミッド型でない価値観や世の中について考えること、人に優しくあることといった気持ちが芽生えてきました。このブレザーも、実はそんなところから生まれているんですよね。
TOOLSとは?
日常的に使う道具(ツール)を人の工夫やアイデアの結晶ととらえ、見た目のよさや利便性ばかりを追求するのでない、その人らしくいられるデイリー・プロダクトを提案するブランド。環境、SDGsを当たり前に意識しつつ、同時に近藤さんの長年にわたるスタイリスト活動で培った審美眼と表層的でない本当の豊かさを考える視点が詰まったユニークなブランドだ。
「何風というのでなく、そのあいだ。気持ちのいい“隙間”を楽しんでもらえる一着です」TOOLS CONCHO JACKET
胸ポケットを排しつつコンチョ・ボタンが存在感を放つミニマル&ラギッドな1着。着用期間の長いウールサージを軽快に仕立てている。ラペルや腰ポケットのステッチのトラッドなムードもいい。ネイビーとブラックを展開。10万7800円
なお、このブレザーは9月24日(水)から27日(土)のツゥールズの展示会(東京)にてオーダー可能。来場希望の方はインスタグラム(@tools.jp)からDMにてお問い合わせを。

【問い合わせ】
スタンレーインターナショナル
TEL03-3760-6088
(出典/2nd 2025年11月号 Vol.214」)
Photo/Nanako Hidaka Text/Kenichi Aono
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