レジェンドスタイリスト近藤昌さんのブレザー考。

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第一回は「ニート」の西野大士さんとともにブレザーについて考えます。

迷っている大人に手に取ってもらいたい

スタイリスト 近藤昌さん|1956年東京生まれ。シップスの前身「ミウラ&サンズ」のオープニング・スタッフを経て、1985年よりスタイリスト業を開始。ZOZO TOWNの立ち上げなどにも携わり、2022年より「ツゥールズ」を本格的に始動
ニート 西野大士さん|淡路島生まれ。小学校教員、「ブルックス ブラザーズ」のプレスなどを経て独立し、2015年にパンツ専業ブランド「ニート」を立ち上げる。現在は国内外のブランドをクライアントに持つPRオフィス「にしのや」も運営

近藤 僕はスタイリストとして男性のパンツのシルエットにまず目がいくんです。今っぽいとかずいぶん前の雰囲気だな、というのはパンツのシルエットと大いに関係していて、だからそこが一番気になるところなんですけど、西野さんがパンツに特化しているのはなぜなんですか?

西野 ブランドを始めた当時は細身のシルエットのパンツが主流だったんですが、太ももとふくらはぎが張っている体型だとそれは似合わない。そこを解消できれば日本人ももっとおしゃれになるんじゃないかなと思って、パンツ専業ブランドを立ち上げました。トータルでブランドを展開するお金がなかったというのもありますけど(笑)。僕らがやっていることってすごく中途半端なんですよね。

近藤 中途半端っていうのはいいですね。そういう誰もやらない道筋は僕も好きです。今日、着ていらっしゃるブレザーはオリジナル?

西野 はい。僕らは前ダーツのないボクシーなジャケットをやっているんですけど、最近はうちのワイド・パンツに「サウスウィック」みたいなシェイプの効いたジャケットもかっこいいんじゃないかと思ったり。だから合うと思うジャケットは時代によっても変わりますね。自分は「ブルックス ブラザーズ」出身ということもあってドレスっぽいものは好きなんですが、でも基本的にカジュアルのフィールドでやっている。だからドレスの人からすると「なっていない」、でもカジュアルの人からは「ちゃんとしたジャケット作ってますね」といわれます。

近藤 今日、僕が持ってきたこのブレザーの第一印象はどうでしたか?

西野 まず、見たことがないぞ、と思いました。「ニューメキシコ・ブレザー」って雰囲気ですよね。詳しくお話を聞きたくなりました。

近藤 アメリカン、イタリアンとか何風といったこともなく、そのあいだをゆくようなシンプルなブレザーを作りたかったんです。それでコンチョ・ボタンにしてみたり。

西野 このボタンは……?

近藤 本物のコインを叩いてコンチョにしてます。

西野 ウォー! こういってはなんですがアホなことしてますね(笑)。最高です。

近藤 胸ポケットもなくして極力シンプル、作りも凝りすぎずに軽く仕立てています。

西野 大先輩である近藤さんは、どうやってその境地にたどり着いたんですか?

近藤 高級とされるものをいろいろ通過してきましたが、近年はお金をかけて得られる満足感や優越感よりも、「豊かさ」が大切なんじゃないか、そんなふうに思うようになりましたね。だから、以前はあれこれ着ていたけれど年齢を重ね、家庭を持ったりして、ふと見返したら昔の服しかなくてどうしたらいいか迷っている大人に手に取ってもらいたいんですよ。そういう人たちにもっと洋服を楽しんでもらって、豊かな人生を送ってほしい。その意味で、手が届くプライスで提供するのがとても重要なんです。話は変わりますが、淡路島のお店、いいですね。

西野 ありがとうございます。帰省って少し義務的なところがあると思うんですけど、そこに仕事をくっつけたらもっと楽しくなるんじゃないかと思って出店しました。親孝行にもなるかな、と。

近藤 今、僕は千葉県の一宮町と東京の二拠点なんです。一宮は母方の祖母の家があって。そこを改修してその一角を「ストリーマーコーヒー」の店舗にして、こうした服とか生活雑貨なんかも少し販売しているんです。ちゃんとバリスタの修行をしてコーヒーを淹れているんですよ。で、そういう振れ幅のある生活をしているうちに、ピラミッド型でない価値観や世の中について考えること、人に優しくあることといった気持ちが芽生えてきました。このブレザーも、実はそんなところから生まれているんですよね。

TOOLSとは?

日常的に使う道具(ツール)を人の工夫やアイデアの結晶ととらえ、見た目のよさや利便性ばかりを追求するのでない、その人らしくいられるデイリー・プロダクトを提案するブランド。環境、SDGsを当たり前に意識しつつ、同時に近藤さんの長年にわたるスタイリスト活動で培った審美眼と表層的でない本当の豊かさを考える視点が詰まったユニークなブランドだ。

「何風というのでなく、そのあいだ。気持ちのいい“隙間”を楽しんでもらえる一着です」TOOLS CONCHO JACKET

胸ポケットを排しつつコンチョ・ボタンが存在感を放つミニマル&ラギッドな1着。着用期間の長いウールサージを軽快に仕立てている。ラペルや腰ポケットのステッチのトラッドなムードもいい。ネイビーとブラックを展開。10万7800円

なお、このブレザーは9月24日(水)から27日(土)のツゥールズの展示会(東京)にてオーダー可能。来場希望の方はインスタグラム(@tools.jp)からDMにてお問い合わせを。

このブレザーのシグネチャーともいえるフロント・ボタンはアメリカのコインをハンド・ハンマーで叩いて製作したコンチョ。ボタンホールはなく革紐を結んでとめるスタイルで自在に表情を作ることができる。袖ボタンもコンチョを採用

【問い合わせ】
スタンレーインターナショナル
TEL03-3760-6088

(出典/2nd 2025年11月号 Vol.214」)

この記事を書いた人
2nd 編集部
この記事を書いた人

2nd 編集部

休日服を楽しむためのマガジン

もっと休日服を楽しみたい! そんなコンセプトをもとに身近でリアルなオトナのファッションを提案しています。トラッド、アイビー、アメカジ、ミリタリー、古着にアウトドア、カジュアルスタイルの楽しみ方をウンチクたっぷりにお届けします。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

【UNIVERSAL OVERALL × 2nd別注】ワークとトラッドが融合した唯一無二のカバーオール登場

  • 2025.11.25

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【UNIVERSAL OVERALL × 2nd】パッチワークマドラスカバーオール アメリカ・シカゴ発のリアルワーク...

【ORIENTAL×2nd別注】アウトドアの風味漂う万能ローファー登場!

  • 2025.11.14

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【ORIENTAL×2nd】ラフアウト アルバース 高品質な素材と日本人に合った木型を使用した高品質な革靴を提案する...

着用者にさりげなく“スタイル”をもたらす、“機能美”が凝縮された「アイヴァン 7285」のメガネ

  • 2025.11.21

技巧的かつ理にかなった意匠には、自然とデザインとしての美しさが宿る。「アイヴァン 7285」のアイウエアは、そんな“機能美”が小さな1本に凝縮されており着用者にさりげなくも揺るぎのないスタイルをもたらす。 “着るメガネ”の真骨頂はアイヴァン 7285の機能に宿る シンプリシティのなかに宿るディテール...

グラブレザーと、街を歩く。グラブメーカーが作るバッグブランドに注目だ

  • 2025.11.14

野球グローブのOEMメーカーでもあるバッグブランドTRION(トライオン)。グローブづくりで培った革の知見と技術を核に、バッグ業界の常識にとらわれないものづくりを貫く。定番の「PANEL」シリーズは、プロ用グラブの製造過程で生じる、耐久性と柔軟性を兼ね備えたグラブレザーの余り革をアップサイクルし、パ...

Pick Up おすすめ記事

スペイン発のレザーブランドが日本初上陸! 機能性、コスパ、見た目のすべてを兼ね備えた品格漂うレザーバッグに注目だ

  • 2025.11.14

2018年にスペイン南部に位置する自然豊かな都市・ムルシアにて創業した気鋭のレザーブランド「ゾイ エスパーニャ」。彼らの創る上質なレザープロダクトは、スペインらしい軽快さとファクトリーブランドらしい質実剛健を兼ね備えている。 日々の生活に寄り添う確かなる存在感 服好きがバッグに求めるものとは何か。機...

今っぽいチノパンとは? レジェンドスタイリスト近藤昌さんの新旧トラッド考。

  • 2025.11.15

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第三回は吉岡レオさんとともに「今のトラッド」とは何かを考えます。 [caption id="" align="alignnone" width="1000"] スタイリスト・...

上野・アメ横の老舗、中田商店のオリジナル革ジャン「モーガン・メンフィスベル」の凄み。

  • 2025.12.04

ミリタリーの老舗、中田商店が手掛けるオリジナルブランド、「MORGAN MEMPHIS BELLE(モーガン・メンフィスベル)」。その新作の情報が届いたぞ。定番のアメリカ軍のフライトジャケットから、ユーロミリタリーまで、レザーラバー垂涎のモデルをラインナップしているのだ。今回は、そんな新作を見ていこ...

今こそマスターすべきは“重ねる”技! 「ライディングハイ」が提案するレイヤードスタイル

  • 2025.11.16

「神は細部に宿る」。細かい部分にこだわることで全体の完成度が高まるという意の格言である。糸や編み機だけでなく、綿から製作する「ライディングハイ」のプロダクトはまさにそれだ。そして、細部にまで気を配らなければならないのは、モノづくりだけではなく装いにおいても同じ。メガネと帽子を身につけることで顔周りの...

この冬買うべきは、主役になるピーコートとアウターの影の立役者インナースウェット、この2つ。

  • 2025.11.15

冬の主役と言えばヘビーアウター。クラシックなピーコートがあればそれだけで様になる。そしてどんなアウターをも引き立ててくれるインナースウェット、これは必需品。この2つさえあれば今年の冬は着回しがずっと楽しく、幅広くなるはずだ。この冬をともに過ごす相棒選びの参考になれば、これ幸い。 「Golden Be...