ブラックデニムはいつ誕生した? 知られざる製法を知れば色落ちの魅力がもっとわかる。

ブルーデニムに比べて圧倒的に情報量が少ないブラックデニム。好きだからこそより詳細な歴史、情報を得たいと思うもの。そこで、セカンド編集部が総力を結集し、徹底リサーチ。調査すると巷で囁かれる噂の誤りが多数発覚! 正しい情報をここで把握していただきたい。

「レミ レリーフ」デザイナー・後藤 豊さん|80年代後半から90年代中頃までリーバイ・ストラウス ジャパンに勤めた後、国内のアパレル系企業を経て独立。 2008年から「レミ レリーフ」を立ち上げる。岡山県児島に染色から加工まで行う自社工場を構えており、デニムに関しても極めて明るい

1980年代に誕生したというのは誤り。実は1903年以前から存在していた!!

そもそもブラックデニムはいつ誕生したのか。また一体どうやって作られているのか。どうしても知りたい、伝えたいと切望したのが、この根本的な問いへの正確な答えだ。というのもブルー(インディゴ)デニムに比べ、ブラックデニムに関する情報量は圧倒的に少ない上に、拾える情報の内容もバラバラで、これは正確だ!と確信できる情報に行き当たることが難しかったからだ。

そこでまずその起源について、ジーンズのご本尊たるリーバイスに確認したところ、なんと“1903年からという驚愕の回答を得た。古着界隈でもネット上でも、ブラックデニムは1980年代から誕生したという説が真しやかに囁かれていたが、これは誤りだったのだ。たしかに同社の1903年のカタログを見ると、明確に“Black Denim”と表記された製品がいくつも作られていたことがわかる。

しかも1906年のサンフランシスコ大地震における火災によって、資料が消失してしまったために正確ではないものの、1903年より前から作られていた可能性もあるとのことだ。かくしてその起源から驚かされたブラックデニムだが、その作り方についても興味深い内容を知ることができた。

リーバイスが仕立て屋のヤコブ・デイビスとともに、「衣料品のポケットの補強に金属リベットを使用する方法」という特許を取得し、ジーンズを生み出したのは1873年5月20日のこと。それから30年の間にすでにブラックデニムは誕生していたこととなる。しかもカタログには10種類以上のアイテムが記載され、“ボーイズ オーバーオールズ”など、キッズ向けの商品まで拡充されていたことを鑑みると、1903年以前から作られていた可能性も十分。いずれにしろ同社のブラックデニムは1980年代から誕生したという説は誤りだったのだ

ロープ染色は実はブルーもブラックも大まかな工程は同じ。

そもそもデニム生地を仕上げるためには、ごくごく大まかに言っても、原綿から糸を紡ぐ「紡績」や、糸を染める「染色」、染めた糸で生地を織る「織布」、ケバ取りや斜行防止などの仕上げを行う「整理加工」などなど、多様な工程を辿る。そのなかでブルーデニムとブラックデニムで最も違いが生じる工程が「染色」だ。レミ レリーフの後藤さんは言う。

「デニムの染色方法も沢山種類があるので一概には言えませんが、最もポピュラーなロープ染色という手法に関して言うと、実は大まかな方法はブルーもブラックそれほど変わらないんです。まず一般的にブルーデニムはその大多数が合成したインディゴ染料を用いているのに対して、ブラックデニムは黒色の酸化染料(サルファ)を使います。

どちらも粒子が粗く水に溶けにくいので、還元剤などを投入して粒子を細かくして、水に溶けこませて液槽に張り、その中にロープ状に束ねられた糸を漬け込んで吸着させていきます。その糸束を引き上げて空気に晒して酸化させ、また液槽に漬け込んで引き上げる。

この工程を何度も繰り返して糸を染めていくことで、糸の芯は白いまま、表層部分だけ染色された、いわゆる中白(なかじろ)と呼ばれる、履き込むと経年変化しやすいデニム生地に染め上がります。つまりブルーデニムとブラックデニムは大まかな染色方法は同じだけれど、使用する染料が異なるということです。

ただ染料が異なると、当然ノウハウも異なってきます。それぞれの染料の調合や、液槽に漬け込む回数、酸化させる時間の長さなど、多様な要素が色に影響するので、染色工程を担う生地メーカーには独自のブラックデニムレシピが存在しているはずです」

色落ちにこだわるブランドの製品はもちろん、古着で流通しているリーバイス製品の多くも“ロープ染色”した糸で織り上げられている。数百本の糸をロープ状に束ね、染料などが入った液槽に漬け、引き上げて空気に晒して酸化させ、また液槽に漬ける。大まかな工程はインディゴと同様だが、ブラックデニムを糸の芯部分だけ白く保ったまま染め上げるためには、異なるノウハウを要する。匿名を条件に取材させ ていただいた職人いわく、ブラックは黒い層と芯部分の白い層をクッキリわけて染めることが、インディ ゴより遥かに難しいとのこと。染色を担っている機屋は国内に数軒あるが、その手法はどこも社外秘だ

一部で流布するリーバイスのブラックデニムが初期は先染め後年は後染め。実はどちらも先染めである。

こうして起源と作り方についておおよその輪郭を捉えることができたが、後藤さんとの取材を経て、現状一部の古着界隈で流布しているブラックデニムの大別法に関しての誤りも判明したので、最後にそれもお伝えしたい。

まず現状古着市場で流通しているブラックデニムの多くは、1980年代から2000年代にかけてのリーバイス製品だ。501505550と品番は様々だが、いずれにしろ80年代前半に作られていたグレーがかったブラックデニムは初期タイプとして分類され、先染めという付加価値の付いた通称で呼ばれている。

一方後年の色がより真っ黒な後期タイプに分類されている製品は、後染めされて作られたというのが定説になってしまっている。しかし後藤さんとともに検証すると、どちらもロープ染色した糸を使った先染め生地であることがわかった。

「一般的に先染めというのは、糸に紡績する前の綿の状態か、紡績した糸を染め上げてから織り立てた生地を指します、対して後染めは、生地に織り上げてから反染めした物か、製品として縫製した後に染める、いわゆる製品染めした物を指します。一部の古着屋さんが後染めとして紹介している真っ黒なデニムは、単に経糸と緯糸の両方にロープ染色した黒糸を使っているもの。初期タイプに分類されている製品がグレーがかって見えるのは、単に緯糸に白糸を打っているから。実はどちらも先染めなんです」

一部の古着屋とネット上では、裏返して白ければ先染めで、黒いのは後染めという情報が流れてしまっているが、それは誤り。リーバイスの古着のブラックデニムが趣深い色合いに育つのは、ロープ染色された糸で織られた先染め生地だったからこそなのだ。

この2本はどちらも“先染め”。上側の製品はよく“裏地が黒いから後染め”とカテゴライズされがちだが、これは緯糸にも黒糸を使っているだけのこと。対して下側の製品の裏地が白いのは緯糸に白糸を使っているだけ。どちらもロープ染色された糸で織られているので、しっかりと経年変化を楽しめる。インディゴとは趣の異なる色落ちも魅力だ
先染めか後染めかを判別したい場合は後藤さん直伝の判別法をお試しあれ。まず裏返してほつれている部分の糸を少量指で抜き取り、撚られている方向と逆に捻る。すると糸が解けてワタのようになるはず。そのワタ状になった糸が白味がかっていれば先染め。黒く染まっていれば後染めだ

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2023年07月07日

(出典/「2nd 20234月号 Vol.193」)