システム手帳は、戦場の情報ツールとして発展した

戦争は発明を生んできた。その多くの発明は日常に入り込み、生活や趣味を支えるものに落ち着く。日用品では、缶詰、腕時計、ティッシュペーパーなど。20世紀後半の電子機器だと、パソコン、インターネット、携帯電話、GPSなど。ファッションでは、トレンチコート、ダッフルコート、Pコートなど。そして、文房具の世界では「システム手帳」が戦場由来の発明品だ。

システム手帳の始まりは約100年前に遡る。1920年に英国陸軍大佐のディズニーが「リファックス」をアメリカから持ち帰る。リファックスは1910年に米国在住のカナダ人エンジニアJ.C.パーカーが発明したルーズリーフ式の事務用バインダーだ。

ディズニーは、差し替えが1枚単位でできるルーズリーフ式の機能に注目し、軍事上の機械、科学、医療など様々な分野の情報を集約できる携帯型情報処理ツールを考案する。そして、当時ロンドンで印刷とステーショナリー販売の会社を経営していた友人のウィリアム・ラウンスに試作を依頼。翌年の1921年には、ラウンスと、共同経営者だったポスィーン・ヒルの2人によって「ノーマン&ヒル」社を設立する(ノーマンは、ラウンスの息子の名前で、これを社名に使った)。

ファイロファックスが生まれて約20年後の第二次世界大戦で、ファイロファックスは戦地で大活躍をした。戦地からの注文を受けたノーマン&ヒル社は迅速に対応し、連合軍の中尉ロバートソン・クックからの感謝状が届いている。また終戦直前には、銃弾が表紙に食い込んだ痕があるファイロファックスの修理依頼が持ち込まれている。これを届けたのはノルマンディ上陸作戦(1944年・フランス)の連合軍の将校だった。頑丈な革カバーにたくさんのリフィルを綴じたファイロファックスが彼の命を救ったのだ。

ファイロファックスが日本に本格的に上陸したのは1984年。経済成長を続ける企業のモーレツ社員、企業戦士などと呼ばれる仕事人にとって、軍用由来のシステム手帳の高機能は打って付けだった。21世紀となり、システム手帳の役割は、PCやスマホに移行していったが、2016年あたりからは日常の生活を有意義に支えるツールとしてアナログ由来の高い機能が見直され、新しい価値とスタイルを持った新製品が続々と登場している。

ノーマン・ラウンス|ファイロファックスの創業時の社名の由来となった軍人。創業者ウィリアム・ラウンスの後継者となるはずだったが、1942年10月、アフリカ戦線で戦死。

ファイロファックスの「軍用リフィル」。軍隊に所属する各隊員の詳細な個人情報を記録できる。このようなリフィルは1980年代まで作られていた

※参考資料/「システム手帳スタイル vol.2」(枻出版社)