名古屋の「徳川美術館」が日本一豪華な嫁入り道具 国宝「初音の調度」を10年振りに一挙公開!

  • 2025.04.10

国宝「初音の調度」は、江戸時代の美を極めた大名婚礼調度である。3代将軍家光の長女・千代姫が尾張徳川家に嫁ぐ際に誂えられた、黄金に輝く豪華絢爛な蒔絵の傑作だ。散逸の危機を乗り越えた70件が一括で揃い、華やかなりし将軍家の婚礼を現代へと伝える歴史の至宝。その全貌が10年振りに一挙公開される。

千代姫の婚礼事情

男児ならば次期将軍、女児であれば尾張家へ嫁ぎ、その夫が将軍に――。

寛永14年(1637)、長年子宝に恵まれなかった3代将軍、徳川家光に待望の子が誕生した。「次期将軍の確保」という大きな使命を背負って生まれた姫君の名は千代姫である。千代姫の誕生と同時に将軍家と御三家筆頭・尾張家の間で一大国家プロジェクトとも言える婚礼の準備が進められ、千代姫はわずか2歳6ヶ月で尾張家の2代光友のもとへと嫁ぐこととなった。とはいえ嫁ぎ先は江戸城内の尾張家江戸屋敷であり、夫よりも身分の高い将軍家の姫君として、千代姫は嫁ぎ先でも「姫君様」と呼ばれ、大切に扱われた。結局、その後に誕生した弟の家綱と綱吉が将軍となったため、夫の光友が将軍になることはなかったが、千代姫は二代にわたる将軍の姉として権勢をふるい、将軍家と尾張家の架け橋となることで尾張家を支え続けたのである。その生涯は「姫君様」の呼び名の通り、華麗かつ誇り高きものであった。

将軍家の威信をかけた日本一豪華な嫁入り道具

国宝 初音蒔絵三棚飾り 霊仙院千代姫(尾張徳川家2代光友正室)所用 江戸時代 寛永16年(1639) 徳川美術館蔵

千代姫の婚礼に際し急ピッチで進められた準備の中には婚礼調度の製作も含まれていた。それこそが今回10年振りに一挙公開となる国宝「初音の調度」だ。

贅を尽くした材料と技術の粋を集めて製作された「初音の調度」は今でこそ70件だが、製作当時の数は200件とも、300件とも推測されている。極めて短期間に膨大な量の調度類が製作され、かつそれら1点1点には『源氏物語』の「初音」の帖をモチーフとした意匠が大小様々に施されていた。めでたい場面であるからなのか、「初音」の帖で描かれる母が子を思う気持ちが幼い娘を嫁がせる家光の心情にリンクしたのか、あるいはその両方か。

千代姫の死後、「初音の調度」は尾張家の菩提寺である建中寺(名古屋市東区)の宝蔵に納められた。生前名古屋の地を踏むことはなかった千代姫だが、「初音の調度」は明治維新や第二次世界大戦などの逸失の危機を乗り越え、質・量ともに類例のない、江戸時代を代表する蒔絵の名品として今も名古屋で守り伝えられている。

初音の調度の魅力

意匠の中に隠された『源氏物語』の和歌の文字

初音蒔絵硯箱(蓋表)の意匠で見る葦手文字の配置

「初音の調度」には、新年を迎えた六条院の情景が描かれる。紫の上と暮らす明石の姫君の部屋には、母である明石の君から贈られた鶯の作り物や贈り物を入れた竹籠が置かれ、そこには和歌が添えられている。

「年月を松にひかれてふる人に 今日うぐいすの初音聞かせよ」

この和歌は、母が我が子の便りを待ちわびる心情を詠んだもので、その文字が調度の意匠の中に巧みに散りばめられている。この、文字を意匠の一部として忍ばせ一体化させる技法を「葦手(あしで)」という。「葦手」は、天皇家、摂家、将軍家など、家格の高い家のみが使用を許された技法であり、特に慶事に用いられるおめでたい装飾として知られている。「初音の調度」には、この雅やかな技法が贅沢に施されている。

凝縮された超絶技巧

「初音の調度」には様々な漆工芸の技法が使われており、1作品を見るだけでもその種類の多さに驚くことができる。ひとつの作品にここまで多種多様な技法を取り入れた類例はなく、「初音の調度」が漆工芸の最高傑作と謳われる理由であり、「初音の調度」製作のために集められた職人たちが、当時一流の技術者ばかりであったことを窺い知ることができる。

初音蒔絵文台・硯箱の拡大
梨子地/金粉を透漆で塗りこむ。家格の高い家のみ使用を許された。
高蒔絵/漆や地の粉などを高く盛り上げ立体感を表現する。
平蒔絵/漆で模様を描いた上に金粉を蒔く、蒔絵の基本となる技法のひとつ。
研出蒔絵/漆の上に金粉を蒔き、それを磨き出して模様を浮き上がらせる。
彫金埋込/文字を彫金で制作し蒔絵に埋め込む。漆工芸と金属工芸の両方の技術が必要。
付描/粘度の高い漆で細い線を描いた上に金粉を蒔くことで、繊細な表現が可能。
切金/薄い板金を正方形や長方形に切り、ひとつづつ貼り付ける技法。
珊瑚貼付/珊瑚の彫刻を貼り付けた表現。全体をより豪華に演出する。

製作年代・作者が明確、かつ一括して現存

「初音の調度」は千代姫の婚礼調度という明確な目的を持って製作された。そのため、寛永14年(1637)に幕府から蒔絵師・幸阿弥長重(こうあみ ちょうじゅう)に製作の命が下り、2年後の寛永16年(1639)に完成したことが記録として残されている。幸阿弥家は蒔絵師の家系で、なかでも長重は天皇家や大名家の道具を多数製作し、その名声を高めた人物である。幕府の命を受けた長重はプロデューサーとして製作の指揮にあたり、多くの職人を束ねながら驚異的なスピードで婚礼調度を完成まで導いた。当時200件から300件は作られたとされる調度類は現在70件を残すのみだが、他の大名家の婚礼調度のほとんどが散逸されている中、70件という数は他に類を見ない奇跡ともいうべき現存数となっている。

国宝「初音の調度」の構成と数え方

国宝「初音の調度」は正式名称を「婚礼調度類(徳川光友夫人千代姫所用)」といい、「初音蒔絵調度」47件、「胡蝶蒔絵調度」10件、その他13件によって構成されている。これら合計70件がまとめて1件の国宝に指定されている。さらに、各調度品を詳細に確認していくと、例えば櫛箱1件の中には、唐草蒔絵の櫛が6点、松梅蒔絵の櫛が34点収められているなど、調度の内部に複数の内容品が含まれている。そのため、数え方によってはその総数はさらに増えることになる。

国宝 初音蒔絵貝桶
国宝 初音蒔絵大角赤手箱
国宝 胡蝶蒔絵碁盤・碁笥
国宝 初音蒔絵刀掛

関連企画

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    徳川ナイトミュージアムPREMIUM 華燭の宴
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    徳川美術館が提案する大人のための知的エンターテインメントで、俳優の内藤剛志さんをゲストに迎えたトークショーをはじめ、地元食材を使った拘りのお食事やお酒、学芸員による展覧会の同行解説など、「初音の調度」を満喫する特別な一夜が提供される。

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    日時:2025年4月5日(土)13:30~15:00
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    日時:2025年4月19日(土)13:30~15:00
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    日時:2025年5月10日(土)13:30~15:00
    会場:徳川美術館 講堂

展覧会概要

  • 展覧会名称:徳川美術館 開館90周年記念特別展 国宝 初音の調度
  • 会期:2025年4月12日(土)~6月8日(日)
  • 開館時間:10:00~17:00(最終入館は16:30)
  • 休館日:月曜日(但し、GW(4/29~5/6)は開館、5/7は休館)
  • 会場:徳川美術館 本館展示室
  • 料金:一般1,600円(1,400円)、高大生800円(700円)、小中生500円(400円)
    ※土曜日は高校生以下無料

所在地とアクセス

〒461-0023 愛知県名古屋市東区徳川町1017

  • JR中央本線「大曽根」駅下車、南口より徒歩8分
  • 市バス・名鉄バス 基幹2系統「徳川園新出来」下車、徒歩3分
  • 名古屋観光ルートバスメーグル「徳川園・徳川美術館・蓬左文庫」下車すぐ
  • 美術館南側に無料駐車場17台あり

徳川美術館公式サイト https://www.tokugawa-art-museum.jp/

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