“100年文具”システム手帳の新しい魅力に注目しよう

システム手帳の世界が今とても盛り上がっています。ほんの5、6年前までは、実はシステム手帳は文房具の絶滅危惧種でした。今では売り上げが伸び、種類もとても増えています。若いユーザーもどんどん増えています。

システム手帳の元祖は、19世紀末にドイツで生まれたバインダー式の手帳です。その仕組みがアメリカに渡り、主に業務用の「リファックス」が普及します。これをヒントにイギリスで「ファイロファックス」が誕生します。時は1922年。戦場の前線で情報を管理しようとしたイギリスの軍人の発想が開発の契機となりました。第一次世界大戦が終わって4年後のことでした。これが現在のシステム手帳の原点です。以後、システム手帳は戦場からビジネスの世界に広がり、普及していきます。

日本のシステム手帳元年は1984年。この年にファイロファックスが本格的に輸入を開始しました。大人気となり、日本ではノックスブレイン(現ノックス)、アシュフォード、バインデックスなどのブランドが次々と誕生。1990年代の仕事道具として確固たる地位を確立します。この当時、社会人になったら真っ先に揃える道具のひとつがシステム手帳でした。

しかし21世紀に入り、仕事の現場にはデジタルの波が一気に押し寄せます。PCやスマホが普及し、それまでシステム手帳が担った多くの役割がデジタルに移行。2008年頃からケータイやスマホはネットに常時接続となり、紙の手帳を開く感覚で、電気のスケジュールやメモ、アドレス帳などを見ることができるようになりました。21世紀の初めの約10年はシステム手帳にとって暗黒期といえるでしょう。メーカーでシステム手帳の企画製造に長年携わっている方は「この時期はシステム手帳の製造を止めて、ブランドを終焉させることを何度も検討していた」と回顧しています。

システム手帳の基本的な仕様や機能は、この百年ほぼ変わっていません。しかし時代が変化することで、価値やユーザーが求めることは大きく変わってきています。

自分が20代の頃に使っていたシステム手帳を見返すと、雑誌作りの締め切りに追われる日々の痕跡が濃厚に残っています。スケジュールを見るだけで当時の慌ただしい毎日の記憶が戻り、頭がクラクラしてきます。

でも文字の隙間には、同僚と夜通し飲み明かしたことや、出張先で食べたご当地の美味についてのメモも残っています。ほんの数文字ですが「あの時は楽しかったなぁ」と思い出の時間や空間が目の前にはっきりと蘇ってきます。手書きの文字って凄いですね。

今、このような日常の楽しさを集める道具として、システム手帳が見直されています。開いたらすぐ書けて、確実に残すことができる。1枚単位で差し替えできるので記録の取捨選択も自由自在。そして上質なレザー文具としての一生モノの価値。多彩に揃うリフィルを選ぶ楽しさ……などが、ライフスタイルを彩り、人生を充実させる道具として見直されているのです。

軍用のツールとして生まれたシステム手帳は百年の時を経て、人生を豊かにする新しい価値も伴って生まれ変わろうとしています。これは礼讃すべき真っ当な進化といえるでしょう。

いつでも、どこでも、一冊あれば楽しみは無限大! まだ未体験の方は、システム手帳の新しい魅力や価値にぜひ注目してみてください。

1970~80年代に使われていたファイロファックス。半世紀前の記録が整理されてそのまま残るのがペンと紙によるアナログ記録の魅力。今スマホに入っている記録は50年後にどうなっているだろうか
標準的な“バイブルサイズ”。リング径(=厚さ)に多様な種類がある。サイズも、バイブル以上のA5、ポケットサイズのM5など多種多彩

※「システム手帳STYLE vol.3(枻出版社)」まえがきを加筆、修正

この記事を書いた人
清水茂樹
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清水茂樹

編集長兼文具バカ

雑誌「趣味の文具箱」編集長。1965年福島県会津若松市生まれ。文房具に関する雑誌の編集、オリジナル文具の開発を担当。2004年に「趣味の文具箱」創刊し、世界中の文具メーカーの取材を勢力的に続け、最新の文具情報を発信。筆記具や文房具の魅力と、手で書くことの楽しさを伝えている。
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