世界的オリジナルブランドでも知られる老舗セレクトショップ「ネペンテス」を手掛けるリビングレジェンド【偉人連載】

日本におけるアメカジムーブメントの礎を築き上げたリビングレジェンドたちの貴重な証言を、「Pt.アルフレッド」代表・本江さんのナビゲーションでお届け。今回ご登場いただくのは、「ニードルズ」「エンジニアド ガーメンツ」「サウス2ウエスト8、以下S2W8」といった世界的オリジナルブランドでも知られる老舗セレクトショップ「ネペンテス」代表・清水慶三さん。いつもなら幼少時代やファッションへの目覚めまで根掘り葉掘りお訊きするものの、同社が手掛けるオウンドメディア(https://nepenthes.co.jp/)にて、その半生があまりに詳細にまとめられているため、今回は特に本江さんと出会った1980年代以降の話にフォーカスする。

「Pt.アルフレッド」代表・本江さんと「ネペンテス」代表・清水慶三さんの出会いとは?

「Pt.アルフレッド」代表・本江浩二さん

「1980年代半ば、渋谷と原宿のほぼ中間地点の消防署が目印だったファイヤー通り沿い。アジのある店が数多く並ぶなかにあっても個人的に最も通った「レッドウッド」の初代店長でもある通称“ナバホ清水さん”こと現ネペンテス代表・清水慶三さんを紹介します。

昭和、平成、令和と時代を跨ぎながら40年以上たくさんのコトやモノにこだわり続け、公私ともに長いお付き合いをさせてもらってます。ボクの方が2つ歳下ですが、ともに独立したのも同じ1988年のこと。お互い60代中盤となり、あの頃があるから今がある的な現場目線の話ができればと、今回、東京に滞在する短期間の合間を縫って登場をお願いしました。

僕のなかで彼はやっぱり渋谷、原宿の人。アメ横のそれとはひと味違う選球眼には、今なお注目しています」

気になるのは、 注目されていないモノ

清水慶三氏|1958年、山梨県生まれ。映画館の支配人を務める父と洋裁が得意な母の間に生を受け、中学生時分に兄の影響から『メンズクラブ』を読み漁りファッションに傾倒。服飾専門学校卒業後にユニオンスクエアーへと入社し「レッドウッド」の立ち上げに参画。1988年に独立し「ネペンテス」を設立

清水さんは服飾専門学校を卒業後、当時をタイムリーに通過した世代にはお馴染みのインポートショップ「レッドウッド」や「ナムスビ」などを展開したユニオンスクエアー社に入社。1979年にスタートした「レッドウッド」の初代店長としてアメリカを中心に日本未上陸のブランドやアイテムを数多く紹介している。

「専門学校卒業後、人づてにユニオンスクエアーという会社に入社し、『レッドウッド』の立ち上げに参画しました。もともとその会社は靴の輸入卸を結構やっていて『レッドウィング』『ジョージア』『オールデン』といったアメリカの老舗靴ブランドのカタログがヤマほどあり、まずはそこから日本ではまだ紹介されていないモデルやブランドを徐々に揃えていきました。他にも『チペワ』『ウルヴァリン』『ミネトンカ』『エンディコット ジョンソン』など、当時は日本未上陸だったり、メンズファッションの文脈で語られていなかったモノたちを引き続きセレクトしました」

清水さんが初代店長を務めた1982年オープンの「レッドウッド」。親会社であるユニオンスクエアーは、その他にも「NAMSB(ナムスビ)」(1980年) 、「SWANK(スワンク)」(1984年)など、ヨーロッパミックスを提案したショップを渋谷エリアに展開。当時は、マニアックな服好きが多く訪れたという

「リーボック」のワークアウトや「ナイキ」の初代エア・ジョーダンといった今となってはド定番のモデルたちも、その多くはレッドウッドが先駆けとなっている。

30歳をきっかけにネペンテス設立へ

80年代半ば頃にはすでに全盛期を迎え、名門ショップの一角となっていたレッドウッドだったが、清水さんは自ら退き、新たな決断に出る。

「レッドウッドで自分がやりたかったことは結構できたつもりではいたのですが、次第に個人的な興味がアメリカだけではなくなっていきました。また、以前より30歳を目処に新しいことを始めたいと考えていたので1988年に独立し、ネペンテスを立ち上げることにしたのです。とはいえ、自分の信念というか方向性はあの時代と大きく変わっていません。とにかく他ではやっていないもの、まだ誰も日本に紹介していないものに興味がありますし、どこにでも置いてあるような定番的なブランドやアイテムなら、自分たちがやる意味がないと考えていたので」

今も二人三脚で活動する鈴木大器さん(現エンジニアド ガーメンツ デザイナー)とともにアメリカを旅し、シューティングやハンティングに特化したショットショーやマリンアクティビティ関連のアクションスポーツショーにまで足を運び、自身の研鑽とコネクションを広げていったという。

「トレードショーで知り合った現地のバイヤーから教えてもらった情報を頼りに工場を訪ねたり、街の公衆電話に置かれた電話帳で気になる項目を調べて、一軒ずつシラミ潰しにしていきました。モカシンブーツが気になるならニューイングランド地方の靴業者と思われる番号に片っ端からアポイントを取ったり。当時は本当にいろいろやっていましたね」

本江さんも「ネペンテスの和名はウツボカズラ。つまりは食虫植物だから、世界中から面白いものを吸収していく好奇心の源なんじゃないか」と評するように、ネペンテスは当初からアメリカだけでなく、ヨーロッパ、さらには辺境のフォークロアまでを並列に展開する、他に類を見ない審美眼で一気に注目を集めた。それらはアメリカを源流としつつも、どこか先鋭的であり、モードな趣きさえ静かに漂わせていた。

当時ラルフ ローレンの生産も手がけていた「ラフ ヒューン」のデニムトラウザーやBDUシャツは、パンツメーカーに勤めていた本江さんにとって、清水さんを象徴するアーカイブのひとつ

「そこは当初から意識していましたね。自分が学生の頃はいわゆるDCブランド全盛期でしたが、自分のようにインポートブランドに興味のある仲間も少しだけいて。アメリカ産のラフなワークウエアからデザイナーズまでを並列に捉えていたことは確かです。ネペンテスを始めたばかりの頃、よく仲間たちと話していたのは、黒いアウトドアアパレルについてでした。

あの頃はまだ黒いアウトドアものなんて全くなかった時代でしたが、自分は以前より黒い服が好きでしたし、どうにか作れないかと。アメリカ、ヨーロッパともにいくつかのブランドに掛け合いましたが、なかなかOKをもらえず苦労したのを覚えています」

「当時からアメカジでは珍しい黒が清水さんのイメージカラーだった。黒のポケTに黒のペインターパンツ、アウターには『ウィリス アンド ガイガー』のG-8。モノ自体はアメリカなんだけどいつもモダンな印象があった」と本江さんは言う

インポートを超えたオリジナルたち

ネペンテスではスタート当初からオリジナルブランドも展開。「ニードルズ」「エンジニアド ガーメンツ」「S2W8」、そして2023年にスタートした「花、太陽、雨」と、それらの多くは清水さんのホビーやライフスタイルに欠かせない、ワードローブや道具たちを補完するために設立されたという。

「創業当時、まずはパンツからオリジナルをスタートさせました。アメリカのスケーターたちが『チャンピオン』のリバースウィーブにBDUパンツを合わせ始めたのを見て、自分が所有するアーカイブを本江さんにお願いしてオリジナルで作り始めたのがきっかけです。また、『HOGGS』という名前でデニムブランドを展開しました。その当時はレプリカブームということもあって注目を集めましたね。

その後、7オンスのデニムでワークウエアを20型ほど作り、10年ほど展開していましたが、いろいろあって商標が取れなかったため、完全に路線を変更して『ニードルズ』を立ち上げたワケです。とはいえ、根本的には自分たちが欲しいもの、こういう素材でこういうモノがあったら、と思うものをその時々で具現化していった感じですね。(鈴木)大器がやっている『エンジニアド ガーメンツ』も表現方法こそ違うものの、全体的な方向性に関してはさほど変わらないと思っています」

USエアフォースの正規コントラクターにオーダーした裾リブなしのMA-1やウエスタンシャツメーカー「ロックマウント」に別注をかけた片ポケ半袖仕様など、清水さんが手掛けるアイテムには必ず他にはないこだわりが見て取れる

マサチューセッツ州でハンドソーンにより作られていた「アローモカシン」や、今やディスコンモデルとなったシボレザーに特徴的なアウトソールが珍しい「ダナー」の[マウンテンライト ネハレム]にもいち早く注目した。「変化球的なフットウエアを引っ張り出すのも清水さんならではでした」(本江さん)

常に端緒は自身のライフスタイル

2008年、先述した「エンジニアド ガーメンツ」が第1回「GQ/CFDAメンズ新人デザイナー賞」を獲得。世界的にもその地位を確立し、ネペンテスはいよいよ世界進出を果たす。2010年のニューヨーク進出をきっかけに、ロンドン、そして来る8月にはロサンゼルスにもフラッグシップストアをオープン。さらに国内でも北海道は美瑛に新店を予定している。

自社バイリンガルメディア『NEPENTHES in print』を不定期発行。ネペンテスに紐づくホビーやライフスタイル、カルチャーなどの現在進行形を発信する。もちろん清水さんが愛するテンカラ釣りにもフォーカス

「もともとは趣味が高じて美瑛に着目し、ペンションだった物件をスタッフ含め自分らが住まいとして使えるようにリノベーションしましたが、次第にこの土地で何かできないかと考え始めたのがきっかけとなり、以前は工場だった物件を新たに手に入れました。

こちらでは美瑛発の新たなオリジナルブランドとして生地を織る際の糸から徹底してこだわった「花、太陽、雨」を運営しながら、ネペンテスのアーカイブを同店舗とオンラインストアを中心に展開するつもりです。また、オリジナルのクラフトビールも合わせて展開する予定です。と、現時点では考えていますが、数カ月後にはまた全然違うことをやっているかもしれません(笑)」

2023年より始動した、北海道・美瑛発の新プロジェクト「花、太陽、雨」。1950年代頃のアーカイブに倣いつつ、日本が誇る伝統的な染色技法「手捺染(てなっせん)」によるプリントで製作した清水さん監修のプリントネル。各4万2900円(花、太陽、雨オンラインストア www.onlinestore-hanataiyoame.com

本江MEMO

レッドウッドの姉妹店だった「ナムスビ」で購入した「ネトルトン」のコードバンローファーは、ダンビロ甲高のボクの足にはとてもキツく、なかなか苦戦してあまり履いてないので40年経ってもまだこの状態
清水さんがいち早く日本に紹介した「ラフ ヒューン」のデニムシャツも、生地やサイズ感、ボタンも含め、あの時代を象徴しているスペシャルなブランドのひとつだったと思います

「40年前、仲間たちと呑みに出かけると清水さんは必ず「オレはデザイナーになるから」とよく言われてました。昔からフットワークのよさは知ってるつもりでしたが、やっぱり凄い人です。 今年5月オープンの美瑛店ではオリジナルブランドをはじめ、ネペンテス所有のアーカイブ、オリジナルのクラフトビールまで展開予定とか。ウエアだけでなく、ワールドワイドに世界観をデザインされてます。ボクもまだまだ斜め後ろから付いてきますのでこれからもよろしくです」

(出典/「2nd 2024年6月号 Vol.205」)

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