最も安く、軽いペン「鉛筆」が、最強である理由。

ボールペン、万年筆、サインペン、筆など、書く道具は多種多様にありますが、最強の筆記具は「鉛筆」であると断言します。その理由を、鉛筆の歴史、作り、進化から探ってみることにします。

鉛筆は、歴代の思想家や建築家、技術者、小説家などの行為を支えてきた偉大な道具です。どこにでも気軽に書くことができ、筆跡はしっかりと残せる一方で、消しゴムがあれば簡単に消すこともできる。筆記具としての鉛筆のこの軽快な性質は、PC、インターネット、メール、スマホといった最新のデジタルツールと併用するペンとしても相性が良好。にもかかわらず、あまりにもありふれた存在なので価値に気付かず、「鉛筆なんて小学生以来まったく使ってないよ」という方がほとんどでしょう。鉛筆は数ある筆記具の中にあって、かなり古い歴史を持ち、進化を続けてきています。鉛筆には、現代だからこそ際立つ優れた機能とデザインが潜んでいるのです。

鉛筆の「芯」

鉛筆の芯の主な原料は「黒鉛」。

1564年、イギリス・カンバーランド山脈のボローデル渓谷で良質な黒鉛が発見されます。この黒鉛に手が汚れないように糸を巻いて簡単な筆記具としたのが鉛筆の起源です。それまでは銀と鉛の混合物を固いものに力を入れてこすりつけて筆記していました。これに比べると黒鉛は柔らかく筆記しやすい。書いた(描いた)跡は、保存性もよく、消すこともできる。また当時主流だった付けペンを使って鉛筆の筆記跡を上からなぞることもでき、液体のインクが不要で、質の悪いざらざらの紙に書いてもにじまずにはっきりと書くこともできます。このように黒鉛には筆記具の素材としてかなりの好条件が揃っていたのです。当時はルネサンスがヨーロッパ全土に拡大している時期でもあり、鉛筆は画家や設計者にとって便利な新しい筆記具として急速に普及していくことになります。

17世紀になると、主にヨーロッパの家具職人の手によって黒鉛の細い棒を木に差し込んで鉛筆を手作りする手法が広がります。18世紀末にはフランスの発明家、ニコラ・ジャック・コンテが近代鉛筆の製造方法を確立。これは黒鉛に粘度を混ぜて高温で焼き固めて芯を加工する方法で、さらに混合する比率を変えることで濃度を調節する方法も発明します。1837年には、ドイツのAWファーバーがBBからHHHまでの高度の種類を揃えた多段階の鉛筆を売り出します。現在では、12B~10Hまで20を超える硬度があり、用途によって細かい使い分けができるようになっています。

木の軸

鉛筆は書き続けると芯がすり減り、軸が削られ、短くなっていきます。多くの木工製品の中でも珍しい「削る」が大前提となっている道具です。

木の軸には、一定の堅さと、湿度があっても曲がらない性質が求められます。その一方でナイフの刃で滑らかに削ることができる木材でもなければならない。鉛筆の進化には良質の黒鉛と粘土を加えて加工する技術が必要不可欠なのですが、それ以上に芯を包む良質な木を見つけることも重要なことでした。

17世紀のヨーロッパの家具職人たちは、鉛筆の機能を最も高めてくれる材料としてどんな木材が適しているのかをよく知っていました。それは「インセンスシダー(ヒノキの一種)」です。割れたり裂けたりすることが少なく、接着などの加工もしやすいため、現代でも鉛筆にとって理想的な木材として使われています。

鉛筆の軸の形は、普及し始めた当時は四角形でしたが、職人はさらに4つの角を削って八角形にしたり、丸形にしたり、と試行錯誤を繰り返しました。作りやすく、握りやすく、転がりづらいという、生産効率と機能のバランスを追求した結果、現代で主流の六角形となりました。鉛筆は3本の指で握るのが基本なので、軸の形は三角形が理想と言われます。握りやすさ重視した三角形の鉛筆も実は結構作られています。実際に握ってみると、三角軸は吸い付くように指先にフィットします。丸形は作画するときにはスムーズに線が描けることから、色鉛筆に多用されています。

補助軸の歴史もけっこう長い

鉛筆は使い込んで削るたびにどんどん短くなっていきます。1本を使い続けていくには、縮んでいく鉛筆に手をなじませるちょっとした工夫も必要。この鉛筆の決定的な不利を補うために、19世紀頃に短くなった軸長を補助する金属製の様々なエクステンダーやプロテクターが登場します。その後ジュエリーの一部へと進化し、純銀を使ったエクステンダーやチェーンを付けたアクセサリーなども登場し、鉛筆の文化が一気に開花します。

鉛筆製造260年の歴史を持つドイツのファーバーカステルでは、19世紀の鉛筆黄金期に作られた高級モデルをベースに、純銀や真鍮などで作ったエクステンダーを組み合わせた「パーフェクトペンシル」を製造し、世界最高クラスの鉛筆として、鉛筆ファンの憧れとなっています。

塗装と刻印

鉛筆の塗装には、とても大切な役割があります。

ひとつは木の乾燥を防ぐこと。乾燥すると軸が曲がったり、ひび割れてしまいます。また湿度の変化から芯を守る役割もあります。

19世紀にはドイツ、フランス、アメリカで鉛筆のブランドが確立され、それにともなって世界中で模造品が多く出回りました。そこで各ブランドは自社の鉛筆が高級品であることを表す目的で美しい塗装を施し、さらに金箔を使って印刷、刻印をするようになりました。手元に鉛筆があれば目を近づけて見てください。削る前提の道具なのに、表面の塗装や印刷のクオリティはとても高く、光沢は深みを帯びています。200年を超える歴史の積み重ねが、この美しい佇まいを生み出しているのです。

鉛筆・ペンシルの語源

鉛筆の「鉛」の文字は芯の主原料である黒鉛に由来しています。18世紀頃、黒鉛は筆記用だけでなく尿結石などの苦痛を和らげるための薬として使われていた記録が残っています。なお黒鉛には人体に有害な鉛の成分は入っていません。

英語の「ペンシル」は、ラテン語の「ペ二シラム」から由来。ペニシラムは動物の毛を筒状の葦に入れて作った筆のこと。ちなみにペ二シラムは、ラテン語でしっぽを意味する「ペニス」から派生した言葉。

※出展:「STATIONARY magazine No001(枻出版社)」
※参考資料:「文房具の歴史(文研社)」「えんぴつ(PHP研究所)」「鉛筆と人間(晶文社)」