【魅力①】宇宙の時の流れが描いた経年という“アート”
歳を経た男の顔面に渋みが宿るように、時計の文字盤も経年により、得も言われぬ玄妙な味わいを添えることがある。それは宇宙の動き、大気の流れが時間を掛けて描きだしたひとつのアートだ。シャンパンの泡のように輝く“泡”を見せるもの。リューズ口から広がる星雲のごとき色合いを呈すもの。灼けた夏肌を想起させるもの……。幼児に美味しい湧水の希少性を伝えるのが難しいように、この“遊び”は経験や苦労、失敗を重ねた大人ならではの密かな楽しみと言える。



【魅力②】“軸受けガチャ”という楽しみ
ムーブメントの軸受けに採用される石は、赤色のルビーが定番だ。それは現代時計もほぼ同じ。しかしヴィンテージには、稀にブルーのサファイヤを穴石に用いたものがある。機能的に違いはないものの、“他とはちょっと違う”というポイントを隠し持つ個体は、その愛用にある種の深みを抱かせることとなる。

【魅力③】メッキでなければ生まれえぬ滋味
今となってはステンレス無垢が一般的だが、かつて中級クラスまでの腕時計は真鍮にクロムメッキを施したケースのモデルが多かった。当時のメッキは剝がれやすく、長年の着用で下地が露出し錆びることも。緑青が絡まることであたかも骨董の“唐三彩”を思わせる景色になることもある。この奥深い味わいは、新品時計には出せない貫禄だ。

【魅力④】横顔に宿る装飾ケースの魅力
1940年代近辺では、ケースに装飾を施したモデルが一定数作られていた。時計は実用品であり同時に嗜好品でもある。当時はそのニーズが強かったのだろう、中級クラスであっても彫金や型押しを側面に施した芸達者なモデルが作られていた。時計の楽しみはステイタスに左右されない。探せばユニークピースに出会うことができる。

【魅力⑤】いにしえの職人技が光るダマスキーン模様
ムーブメント(機械)の美観のひとつとして「仕上げ」がある。ただし基本的には機能的意味合いのもの。だが、ダマスキーン模様は純粋にムーブメントのショウアップを目的とした装飾だ。そのほとんどがアメリカ製の懐中時計に見られるが、稀に腕時計のムーブメントに施される場合もある。真に豊かだった時代の残り香が漂う仕様だ。

(出典/「2nd 2026年7月号 Vol.219」)
Photo/Nanako Hidaka, Norihito Suzuki Text/Tsuyoshi Hasegawa
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